風岡(かざおか)直宏さん
(風岡たけのこ園代表 静岡県芝川)

オンリーワンな働き方
第4回 男の血が湧き立つ!たけのこづくりは、エキサイティングな天職
連載も折り返しの第4回では、男の血が燃える山仕事をご紹介。風岡さんが「野生の武井壮」との異名を持つゆえんが、呆れるほどにおわかりいただけるでしょう。
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「僕、山では豹変して 『漁師』 になるんですよ」
山でたけのこを掘るって、どんな仕事なんでしょう?
格闘技をやってるような感じ。わかります?
山でさ、時計見て「直売所にお客さん来るから、早く戻らないといけない!」と思うと、もう、トライアスロンみたいなもんですよ。タイムに追われていて早く、なおかつ正確にだもんで。ほんとに格闘技やってるというか、殺戮をやっているというか、そういう勢いだね。他のイメージとしては、漁師みたいな感じかな。アドレナリンが出てるっすよ。だから、山の下みたいにチャラいこと言わないすよ(笑)。山だもん真剣さ。
それで、山降りてきた途端、「いらっしゃいませ~」とか、いきなり愛想よくなれないっすよ。そんな簡単に格闘モードから戻らないもんで、30分くらいかかります。バイトにも「店長怖い」って言われるさ。この仕事は、素質的には、怖い人間とか厳しい人間じゃないとできないっすね。たけのこ農家って、この切り替えが大変なんすよ…。
だってさ、漁師でマグロ獲れたやつがさ、「はい、いらっしゃい、今日獲れたマグロだよっ!おいしいよ~」なんて言うか?言わないでしょ(笑)!だから、山から戻ってくると、役柄を入れ替えなきゃいけない、そうしないとお客さん逃げちまうよ、ほんとに。それが毎年難しい。たけのこを採るのにこんなに集中しないといけないって、多分みんな思ってないら?
稼ぎも、他の時期にあまり稼がないようにしておく。僕は生活の糧がたけのこ。だから、そこを一番大切にするためには、他の時期の所得をあまり多くしないで、その時期だけ乗り越えれば「あとは遊べるんだ」とか、「一年の責任を果たせるんだ」とか、そんくらいのモチベーションを持たないとやっていけない。
「『みんながきつすぎてやめてしまった商売』 をもう一回やる」
昔はたけのこが盛り上がってたけど、今は縮小してしまって。みんながやめてく商売を拾ってる感じになってるんです、僕。そういう意味では、蚕とかいいんじゃないかなって。養蚕って昔どこでもやってたし。そんなところにビジネスチャンスがあるんじゃないかって思うんです。みんながきつすぎてやめてしまった商売をもう一回やればいいんじゃないかと。手間がかかるわりには、思うほどお金にならないって商売。
僕は年間300日、山に入ってる。それで、他のたけのこ屋さんと同じ価格だったら割に合わないけど、それを認めてくれるお客さんがいる。
年間300日! 休みはないんですか!?
300日っていったらサラリーマンが会社に行ってる日数よりも多いっすよ。それで、今年は1月1日から今日(編集部注:10月19日)まで、1日も休んでないすよ、僕自身。店が休みの日は一日山に入ってる。そういうときのほうが実は大変なんだ。逆に、店番が僕の仕事の中で一番楽、悪いけど(笑)。お客さんがいないときは座って、本を読んでもいいわけですよ。お客さんが来たらおしゃべりして、お金になる、で、身体も休まって回復してる。こんないいことないっすよ。
東京の一般的なサラリーマンのイメージとは真逆ですね。通勤電車で、スマホゲームやってる生気のないおっちゃんを見ると、なんだか悲しくなりますもん。
僕は、仕事が嫌になったことがない。だって、楽しいじゃん。実家のすぐ手前が直売所だから、通勤に時間がかかることもないし。ホームシックにもならない(笑)。
特に、山はたーのしいよ、もう!!色んなことがあるんだ、予想外のことが。
例えば、スズメバチの巣を踏んじゃったりとか、ジバチの巣を見つけちゃったり。あ、過去にジバチの巣を踏んじゃったことがあるんですよ。となるともう、突然だもんで何が何だかわからない。ジバチが追ってきたから、車まで走って坂を上って、急いで車内に入って窓を閉めた。で、よく見たら車の中に蜂が入っちゃってて、7か所刺されたことがあるさ。
風岡さん、無事でしたか?
ん?現在ここにいるじゃん。
「スズメバチには、もうすでに3回刺されちまったさ」
もしかして、スズメバチにも刺されたりとか?
スズメバチは3回ですね。
草刈りをしていたら、ふいにブーンと上がってくるんですよ。草刈りやってるもんだから、わからないんすよ。ほれで、足を刺された。その時、巣が近くにあるんだと気が付きましてね。夜に暗くなってからもう一度行って、巣穴に虫取り網をかぶせて、ガソリン流し込みました。殺さないと、次また作業できないじゃないですか。これでもう大丈夫です。あのね、土の中とか、切り株が腐ったところとかに巣を作るんですよ、スズメバチは。それで暗くなると巣に戻るんですよ、だもんで夜に駆除。
風岡さん!おもむろに取り出したそのビンはなんですか?
生きたスズメバチを焼酎につけ込んだものだよ。虫刺されに効くぜ。
うわっ、よく見たらお店で販売してるし!
スズメバチって生け捕りできるんですか?
カブトムシとかクワガタを採ってれば、一緒に樹液にいるじゃん。それを虫採り網でポッと採る。ピンセットで網の上から蜂の身体をつかんで、ホワイトリカーの入った瓶に突っ込む。そしてキャップ閉めて振る。そしたら、スズメバチは死ぬ。後は家に帰って、本漬けすればOK。多いときはいっぱい採れるよ。巣なんか見つけちゃったら、出入口見つけて、そこで出待ちすればいいじゃない。(編集部注*)
刺されて、高熱出たりしないんすか?
すごい痛くて熱い、みたいな?うち帰ってきてスズメバチの焼酎かけるけど、次の日はかゆい!痛痒い!もう、腕をバンバン叩くような痛ささ。
だけど僕の場合、体質なのかはわからないけど死に至るほど悪化はしないんよ。
さすが野生の武井壮だ…
(連載シリーズ⑤ https://taberutimes.com/posts/5428 に続く)
(編集部注*)
スズメバチに刺されると、ショック症状で死に至る場合もあり大変危険です。真似はしないでください。
聞き手:森山健太(早稲田大学3年・NIPPON TABERU TIMES編集部)
<風岡さん連載シリーズ 一覧>
第1回 「たけのこを1億円掘った男」
第2回 「農業界の武井壮、たけのこを語る」
第3回 「日本初!幻の白子たけのこの量産に成功したさ」
第4回 「男の血が湧き立つ!たけのこづくりは、エキサイティングな天職」
第5回 「超アナログ商法!僕がお客さんの心をがっちりつかむ秘訣」
最終回 「時代は低燃費系男子?僕はフェラーリ系男子だよ」
https://taberutimes.com/posts/5746
肉体労働が 『生きている』 実感をつくってくれる。
僕は、苦労すればするほどよいという発想なんだ。というか、苦労しないと満足できない(笑)。苦労して肉体労働をしているときにこそ、「…生きている!」という強烈な実感を持つことができるのさ。