【デントウヤサイ大学5限目】地産地消の観点から考える江戸東京野菜の魅力

in デントウヤサイ大学/東京
                 
この記事のライター
                 

デントウヤサイ大学5限目では、押上よしかつ店主の、佐藤勝彦(さとう・かつひこ)さんにお話をうかがいます。押上よしかつは、東京産の食材を使ったもんじゃ焼きなどを提供する居酒屋さん。農業というイメージが全くない東京で、東京由来の料理のこだわりを実現させるには地道な努力と工夫が必要だったそう。佐藤さんの「東京産」という地産地消の視点で考える江戸東京野菜の魅力に迫って行きます。

押上よしかつ店主佐藤勝彦(さとう・かつひこ)さん 

デントウ野菜大学で最初に取り上げる伝統野菜は、江戸東京野菜。

江戸東京野菜とは、種苗の大半が自家採取または種苗商によって確保されていた江戸時代から、昭和40年代までの野菜のこと。

参勤交代の際江戸に伝わった野菜や、現代まで住宅地で人知れずひっそりと種をつないでいた野菜など、一つ一つの野菜の背景に物語があるのが魅力的だ。

まずは江戸東京野菜学の門をたたいてみよう!!(書き手:河村青依/食べタイ編集部/早稲田大学)

【時間割】
1限目:江戸東京野菜を育てる農家さんの気持ち 
2限目:江戸東京野菜を使う魅力
3限目:江戸東京野菜を食育で伝える喜び
4限目:生産から広報まで、江戸東京野菜のなんでも屋の熱い気持ち
5限目:地産地消の観点から考える江戸東京野菜の魅力

 【5限目で学ぶのはこれ!】

①    伝統野菜の魅力:調理法一つで、美味しさに幅が広がるおもしろさ

②    伝統野菜の現状:東京由来の食材調達の難しさ

③ 伝統野菜を未来につなげていくには:江戸東京野菜の魅力をレシピでPR

①    伝統野菜の魅力

調理法一つで、美味しさに幅が広がるおもしろさ

東京由来の食材を使うことに、江戸東京野菜が加わったのには*寺島ナスとの意外な出会いがあった。

左から、F1種ナス・寺島ナス・馬込半白キュウリ

「江戸東京野菜の魅力は、野菜それぞれに今の常識を超える調理法があること。そしてそれを発見していくのがおもしろいと思いますね。例えば、寺島ナスは調理法で美味しさがガラリと変わる野菜です。寺島ナスを調理するに至ったきっかけは、墨田区内での試食会で不評だった寺島ナスをどうにか美味しくできないかと思ったことでした。寺島ナスは堅い皮が特徴的な野菜なのに、試食会では浅漬けにしたらしくて。そこで寺島ナスを、揚げ出しにしてみたら、油をよく吸収して、中がとろとろになって絶品になって。寺島ナスのおいしさを発揮できる調理法はこれだって実感しましたね。あと、江戸東京野菜の調理法の参考に浮世絵を見ることがあるんだけれど、ナスの皮を包丁で剥く絵があって。きっと江戸時代のナスは今の野菜より堅かったんだろうな、とか考えて。創造的に調理できるのは面白いと思うな。

もう一つ、調理法が面白い野菜は、*馬込半白キュウリ(まごめはんじろきゅうり)ですね。馬込半白キュウリは上が緑で、先が白いキュウリなので、緑色のところが苦いのが特徴的。また、皮もエナメル質で堅い。だから煮てタイ料理のグリーンカレーに入れるとおいしい。キュウリって火を通すイメージがない野菜だけど、馬込半白キュウリは煮るとすごくおいしくて。今の常識とは違う調理法を試せるところが 魅力的だと思います」

*馬込半白キュウリ キュウリと瓜を掛け合わせて、大井キュウリを改良したキュウリ 

F1種ナスと寺島ナスの揚げ出しと浅漬けの食べくらべ

取材の中で、江戸東京野菜の寺島ナスと、*F1種のナスの浅漬け、揚げ出しの食べ比べをさせていただいた。浅漬けは明らかにF1種の方がおいしかったが、揚げ出しにした時の寺島ナスのホロホロ感はたまらない美味しさだった。

調理法一つで美味しさが変わる、佐藤さんは江戸時代の文献もレシピの参考にするなど研究熱心で、とても楽しそうに語ってくれた。

*F1種 異なる野菜を掛け合わせた交配種の第一世代野菜。栽培性の高さから広く普及している。

②    伝統野菜の現状:

東京由来の食材調達のむずかしさ

お店を出した当初、もんじゃの食材はほとんどが輸入品だったという。もんじゃは東京下町のソウルフード。だから、東京の郷土料理ともいえるのではないかと考えた佐藤さん。郷土料理なら、東京産の食材を使いたいと、お店の方向性をシフトチェンジしたそうだ。そうして12年の歳月をかけて東京由来の食材を使う現在の「押上よしかつ」の基盤を完成させた。農業とは縁遠く見える東京でどのように東京産の食材の調達を達成したのだろう?

「東京由来の産物を使うってとても難しいことで。だって東京の自給率は1パーセントも満たないでしょ。農業白書を見ても1トン以下はゼロ表記だから、欲しい食材を生産している農家さんにたどり着くには、一軒一軒直売所をまわるしかなくて。直売所を回って珍しい食材、例えば大豆や小豆、小麦など生産者さんがあったら、誰が育てているか聞いて直接会いに行ってましたね。

そうして地道に活動していたら、キャベツは、2ヶ月は東京産で賄えない時期があるけれど、それ以外は東京産のキャベツで出せるようになりました。それにもまして、江戸東京野菜は育てている人は少ないし、量も少なく安定供給が難しいので、農家さん探しと供給してもらうことがもっと大変でした。なので、江戸東京野菜のある日は積極的にその食材を使って、ないときはほかの東京由来の食材にする料理をメニューに入れるなど工夫を心掛けています。それに、東京の農家さんは数が少ないけれど、こうして使う料理店があることが少しでも、東京の農業の支えになればいいなと感じています」

最近はSDGSや地産地消、地域で経済を回す仕組みのひとつとして地場野菜が注目され始め、都内でも直売所が増えつつあるそうだ。東京由来の食材を使うこだわりには、佐藤さんのそのような東京の郷土料理を作りたい・都内の農業を支援したい、気持ちが込められていたのだ。

③ 伝統野菜を未来につなげていくには:

江戸東京野菜の魅力をレシピでPR

押上よしかつのメニューは佐藤さんの説明が細かく書かれていて面白い。東京のどこの地域でどう育ったのか、どのような味わいがわかり読んでいてどれも美味しそうなのだ。そこには佐藤さんのこだわりと想いが詰まっていた。

メニュー表:解説が細かくて読むのも楽しい、東京の食材への愛情が感じられる

「農家さんから仕入れるとき必ず農地に出向いて、育っている様子を確認します。農家さんに話を聞くだけでなく、実際に農地を見ることを大切にしていて。そこで見たこと、聞いたことを、料理を提供する際にお客さんに伝えることを心掛けています。そうすることで、食べている食材の向こう側の農家さんとお客様がつながる。これは大切なことだと思っていて。また、農家さんでも江戸東京野菜の美味しい食べ方を知らなかったり、直売所に説明書きなしで出荷してしまったりする人も多くて。そうすると、何も知らずに江戸東京野菜を買った消費者は、思っていた野菜と違うってなってしまいますよね。だから、自分の江戸東京野菜のレシピを提供して、これをコピーして直売所に貼りなよってアドバイスもします。

また、江戸東京野菜の*本田ウリと日本酒の吟醸酒の香りは、フレッシュな華やかさがとても合うから、のんべえに提供するととても喜ばれます(笑)。野菜の香りと日本酒のマリアージュを考えるのも楽しいですね。

調理という観点から江戸東京野菜の魅力を掘り下げ、伝えていく工夫をしていく、そうして食文化を広げていきたいなって思っているよ」

 *本田ウリ 甘味は少ないがジューシーな果肉は徳川家光も好んだとされる。銀まくわの代表的なウリ。

野菜と日本酒の香りの組み合わせのほかにも、押上よしかつのメニューは佐藤さんの創造力に富んでいる。例えば同じ牛乳アイスに、組み合わせる日本酒や焼酎を変えることで、チョコやナッツの味に変える「お・と・なのアイス」というメニュー。創造力で開花された野菜の魅力を伝えていき、江戸東京野菜を消費者に伝える努力をしているのだ。


➤このライターのプロフィール