変わることを恐れない農家の話―アフターコロナの「豊かさ」を問い直す

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【コロナの向こう側へ】
私たち日本食べるタイムスは全国各地の生産者の皆さんに、たくさんお世話になってきました。しかし、私たちの知り合いの生産者さんの中にも新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けている方が、少なからずいらっしゃいます。今、生産者の皆さんの身に何が起きているのだろう?編集部員がコロナ禍の農林業のリアルに迫ります。

今回オンラインで取材をさせて頂いたのは、長野県飯田市で夫婦で「テトテ農園」を営む千葉一哉さん。

千葉さんは6年前に横浜から長野県にIターンし、2年間の研修の後「テトテ農園」を始められました。現在、フルーツとうもろこしと南信州下伊那地域の特産品である市田柿を中心に、ミニトマト、生ニンニクなど様々な作物を栽培されています。

以前、千葉さんがIターンした経緯を取材した記事はこちら

今回は、千葉さんが最近始めた新たな挑戦やコロナ禍で改めて感じたことについてお届けします。
様々なことを変えなければならない今だからこそ大切なことを、農家として日々自然に柔軟に向き合う千葉さんの考え方や生き方が教えてくれました。

聞き手:鶴田鈴(食べタイ編集部/早稲田大学1年)

コロナ禍での気づき

日本列島各地で梅雨入りし、日々暑さが増してきた6月初旬。
涼しいイメージの長野県ですが、そんなに甘くはありません。

「朝晩は涼しいけど、昼間の気温はもう東京と同じくらいあるんじゃないかな。作業をやってられないくらい暑いです」と苦笑する千葉さん。

―やっぱり暑さはつらいですよね。最近のテトテ農園は、どんな感じですか?

「この間ちょうどとうもろこしの種まきが終わったところです。うちは家族経営で二人で回さないといけないので、収穫時期をずらすために種まきを4月20日ごろから11回に分けて行います。とうもろこしは7月後半からお盆頃まで販売します」

―もうすぐ旬の季節ですね!楽しみです。
では本題になりますが、新型コロナウイルスは千葉さんにどのような影響がありましたか?

「うちは農業としてはそんなに影響はありませんでした。ただ観光業という点で、いつも5月か6月に農家民泊として修学旅行生を受け入れていますが、それがまるっきりゼロになってしまいました。もしかしたら時期をずらしてできるかもしれないですけど、農家民泊はこの土地を知ってもらえる機会でもあったので残念ですね」

長野県飯田市は農家民泊・農業体験をはじめ、移住希望者のためのツアーやイベントなどが積極的に行われています。今回のコロナ禍でも、地域外に住む飯田出身の学生に、特産品や感染予防対策商品などを詰め合わせた「ふるさと生活応援品」を送付するプロジェクトなどがありました。※長野県飯田市ホームページ https://www.city.iida.lg.jp/

そんな地域のために自分が今できることは何かを考え、千葉さんは最近、地域にある放置竹林の解消のための活動に取り組んでいらっしゃいます。

「住んでいる地域に放置竹林があるのですが、放置竹林は景観を乱すだけでなく土砂災害の原因にもなります。なのでその解消のためになにかできないかと考え、今行っていることがメンマ作りです。竹林の管理だけではなく、そこでとれる竹を利用してメンマを作ることで循環を生み出せるのではないかと考えました。この間ちょうど味付けまでが出来上がったところで、この活動について地域の皆さんに知ってもらうためにも、今度試食会を開きたいと思っています」

地域が人を受け入れ、今度は受け入れられた人が地域のために動く。そのような循環が起こり、これからも新たな活動を生み出すかもしれません。

そしてもう一つ。コロナによって「自給力」ついて考えるようになったそうです。

「コロナによって自分たちの自給力の低さに気づきました。農家として野菜を育てていても、それだけでは暮らしていけないことに気づき、まずその一環として鶏を飼い始めたんです。米作りにも来年から着手していきたいと思っています」

もっと自分の手で作れるものを増やしたい。
ただその思いと「楽しむこと」を第一に、やりたいと思ったことに忠実にいろんな作物に挑戦する。それが、千葉さんの農業に対する姿勢です。

自分なりの豊かさの形

―コロナによって農業界にも変化があるでしょうか?

「農業を始めたいと思っていた人って、以前からいたと思うんです。コロナを通して自分を見つめ直す時間が増えて、豊かな生活とは何かを考えたときに、地方や田舎に来る人が増えるんじゃないかな。リモートワークも普及して田舎に住みながら働きたいっていう人が出てくるかもしれないし」

ー千葉さんもご自身のライフスタイルを大きく変えられましたよね。農家になる前は何のお仕事をされてたんですか?

「もともとは横浜でデザイナーとしてグラフィック関係の仕事をしていました。大学卒業から10年ぐらい働きましたね」

―10年!結構長いですよね。そこからどうして農業を始めようと思ったんですか?

「10年ぐらい働いて、ちょうどその時結婚して家族が増えて。将来について、このままでいいのかなって色々考え始めたんです。どういった生活が自分にとって豊かな生活なのか。それを考えると食べ物って重要だと気づいたんです。よりいいもの、安心して食べられるものを食べたい。そう思うようになったのがきっかけかもしれないですね」

自分にとっての豊かさ。お金やモノではなくて、生活の中での豊かさというものをどうしたら求めていけるかと考えると、農業が千葉さんにとって一番理想に近い形でした。

―生活の中での豊かさをどう追求するかを考えた時に、農業以外の選択肢はあったんですか?

「農業以外にも色々と考えました。だけどやっぱり家族で幸せに暮らすためには子どもが育つ環境も重要だと思って。自然の中で健康的に体を動かせるというのは、子どもが健やかに育つために良いんじゃないかと思いました。そして、食を大切にしたい。そうすると何の仕事かなと考えて、農業という選択になりましたね」

農業は生活と仕事がとても近い職業です。その分、家族とも近い距離にいることができる。
そのことが日常を豊かなものにしてくれるのかもしれません。

安心を求める声に応えたい

食べるものについて考えることは大切です。安心して食べられるものを求める人が最近増えてきています。

「コロナが流行して、免疫力が重要視されるようになりました。そこから、食事で免疫力を上げようということもたくさんの人が考えると思うんです」

―そうですよね。健康意識が高まりましたよね。

「そうして食への意識を見直したときに、どのように作られているのかを知りたいと思ったり、安全さを重視する人が増えると思います。そういう人たちに安心して食べてもらいたい。だからできる限り栽培して、どのように作っているのかなどの情報もたくさん発信していこうと思います。今年は残念ながら不作なんですが、うちでも育てている生ニンニクは免疫力アップに効果的なんですよ」

正しい情報を元に安全なおいしいものを食べてもらいたい。そんな思いで日々SNSを通して様々な情報を発信されています。

自分の食を見つめなおし、食材がどのようにつくられているのかを知ろうとすること。それは健康につながる大きな一歩かもしれません。

「コロナによって、たくさんのことが変わりました。その変化がどうであっても自分で消化していきたいと思っています」

農業では、毎年作っていても同じようになる時はありません。また気候変動によって、今作っている作物が作れなくなる時がくるかもしれないそうです。
それでも千葉さんは「その代わりに違う作物を作ることができるようになるかもしれない。それもちょっと楽しみです」とおっしゃっていました。

コロナによって「こんなはずじゃなかった」と思ったことがたくさんありました。しかしそれと同時に、約束された確実な未来なんて無いということにも気づかされました。

思い通りにならないからこその面白さもあるのかもしれません。
予測不能な自然に柔軟な姿勢で向き合う千葉さんから、「できないこと」を嘆くよりも「今できること」を考えて実践してみる勇気をもつことの大切さを教えて頂きました。

【テトテ農園について知りたい方はこちら】
テトテ農園公式サイト: https://tetotefarm.com/
Facebook: https://www.facebook.com/tetotefarm/
Instagram: https://www.instagram.com/tetote_farm/


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