農×教育 今こそ輝く「いなか」での学び〜前編〜

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私たち日本食べるタイムスは全国各地の生産者の皆さんに、たくさんお世話になってきました。しかし、私たちの知り合いの生産者さんの中にも新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けている方が、少なからずいらっしゃいます。「今、生産者の皆さんの身に何が起きているのだろう?」編集部員がコロナ禍の農林業のリアルに迫ります。

今回取材するのは、高校生向けの農村体験プログラム「いなか塾」を営む奥出一順さん


いなか塾とは奥出さんが通信制高校と提携して行う農村体験型教育プログラム。生徒たちは4泊5日を京都や岡山の小さな集落で過ごします。私は、去年の夏にボランティアスタッフとしてこの活動に参加しました。
いなか塾では生活に必要な全ての作業を自分たちで行います。田植えを始めとする農作業、食事の準備、薪割り、火起こし…
それは言わば、人間主体の社会である都会の生活から、自然主体の社会に飛び込むこと。
さて、ボタン一つで全てが住む都会の生活とかけ離れた集団生活の中で、生徒たちは何を学ぶのでしょう?
聞き手:岩田なつこ(食べタイ編集部/明治大学2年)






いなか塾での生活は生徒たちに何を与えてくれるのでしょうか?



奥出さん-通信制高校に通っている生徒たちは学校の成績のような狭い範囲で評価されています。端的に言えば、認められたことや褒められた経験が少ないのです。しかし、彼らの都会での時間軸をリセットして、全てを余すことなく使い切るいなか塾での生活の中で、自然と心も体も解きほぐされるのではないかと思います。
 ここでは、日々の仕事が生きることに直結しています。どんな生徒にも一つ一つ仕事があり、それが全員の役に立っています。鶏の世話、台所の掃除、日々の仕事の中には「自分にできること」を考える機会がたくさんある。その「できること」の一つが心に引っかかってくれたらいい。「ここにいていいんだ」という気持ちを感じてくれたら嬉しいですね。

生徒たちはさっきまで生きていた鶏が肉になって食卓に並ぶところまで、目をそらさず見つめます。


近くの竹林から自分たちで竹を切って箸と器作り。お待ちかねの流しそうめんをします!



こんな風にいなか塾で芽生えた大切な気持ちや発見。生徒たちにどう活かしてほしいですか?



奥田さん−そうなのです、いなか塾という非日常での生活を日常の中でどう活かしていくのかが難しいのです。これまでの生徒たちは毎日食事を作ってくれる親御さんや食材、命をいただくことへの感謝の気持ちを再確認するようになりました。
 どんな経験も自分の中で活かしてこそ!意味があるものですからね。
 
 彼らの得た経験を最大限に生かすために、新たな取り組みも考えています。彼らが卒業するとき、働く場を支援し、つなげるマッチングの役割を果たすことです。そのために、以前は京都市の久多という場所を中心に活動していましたが、現在は拠点を岡山県西粟倉村に移転しました。
 久多では、生徒たちが本当に「久多に戻ってきたい!」と思った時に収入源となる産業がなく、受け入れ態勢がないことが悩みでした。この西粟倉村では面積の95%が森林で、農業はできません。しかし、豊富な木材資源の価値を見直し、村独自の事業を展開しています。西粟倉村でなら「ここで働きたい!」と言われた時も「よし来い!」と言えます。
去年の夏頃から西日本中の田舎を渡り歩いて見つけました。「生業」となるものがここにはたくさんあります。

労働の後のご飯はやっぱり格別の味。




新拠点も見つかりさあこれから!というところだったのですね。コロナウイルスの影響はありますか?



奥田さん−いなか塾の開催は早くとも今年の秋から冬にかけてとなってしましました。もし開催する時が来てもこれまでのように10人単位での開催は難しいでしょう。少人数での開催になると思います。
 
 けれど、いなか塾がなくなるわけではありません。これまでは期間限定で4泊5日の開催でしたが、新たに高校と提携して通年の年間コースを開始しました。「いなか留学」のようなイメージです。今の状況を考えると学校で正式なオンライン授業を開始することも検討しています。
 通信制高校に通っている生徒たちは家に居場所がないことが多いです。その子達が自宅待機という状況になっていると思うと辛かった。画面越しでもいいから笑顔が見たいと思って毎週日曜にオンラインいなか塾を始めました。
 オンラインにも長所はあり、自分がいる生の生活が発信し続けられます。実際には蜂の巣箱の作成から設置までをオンライン配信して、高校生を含む参加者の皆さんとその生態を学びました。
 このオンラインいなか塾を通じて非日常を忘れず、日常の中に繋がりを持ち続けて欲しいです。





新しい「いなか塾」



奥出さんはこのオンラインいなか塾に加えて、西粟倉村での短期滞在プランも考えておられるそうです。今回のウイルスをきっかけにリモートワークに切り替えたことで、自宅での仕事が捗らない方や、わざわざ都会で生活する必要性を感じなくなった方へ向けて、1週間や1ヶ月単位で滞在してもらうという計画です。パソコンの画面から目を上げれば、きらめく木漏れ日や木々のざわめきを感じられる生活は、せわしない日々に一息つく時間を与えてくれるでしょう。

対面で会うことは難しくなっても、奥出さんは新しい形の「繋がり」を作り続けようとしてらっしゃいました。

オンラインいなか塾で予習もバッチリな生徒たちは来年にはきっと本物の「いなか塾」を満喫してくれることでしょう。

皆さんも、「コロナの向こう側」の日本を西粟倉村で過ごされてみては?
いなか塾のホームページはこちら(現在は京都市久多から岡山県西粟倉村での活動となります。)http://kyotokutainakajuku111.mystrikingly.com

後編では奥出さんにとっての「食べること」、「生きること」についてお聞きします。お楽しみに!


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