ワークライフバランス、どうですか?「普通の農家さん」に聞いてみた!【前編】

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今年の冬は暖かかったですね!農家の皆さんは、夏の水不足に戦々恐々…?

はじめまして、食べるタイムス編集委員、早稲田大学3年の千晴です。

今回の記事で取り上げるのは…

山形県小国町の酒米・花き農家 井上 昌樹さん!

食べるタイムスとは、もう2年以上もお付き合いいただいています。

しかし、昌樹さんをメインで取り上げる記事は一本もなかったのです。

そこで今回、どのような想いで農業に向き合っているのか、閉塞感の立ち込める農業界をどのように切り開いていくのか、聞いてきました。

前編では、昌樹さんの人生哲学と、生業としての農業の「リアル」な姿に迫っていきます。

・・・

一月の上旬、厳冬期にもかかわらず雪の少ない小国町。

町内の中心部に程近い昌樹さんの自宅を訪ねると、自宅に招き入れてくださいました。

井上 昌樹(いのうえ まさき)さん
恵美(めぐみ)さん
小蒔(こまき)ちゃん
栞(しおり)ちゃん

井上家、家族写真。

山形県小国町出身。平成5年に、町内の基督教独立学園高等学校を卒業。その後、山形県立農業大学校、農林水産省農業者大学校で農業経営について学び、平成11年に小国町で就農。農業普及員の奥様、かわいい娘さん2人とともに、小国町中心部で生活されています。18haもの広大な農地で水稲(食用米、酒米)を栽培するほか、ストック・トルコギキョウ・ハボタンなど観賞用の花きも栽培しています。農協への系統出荷の他に、花き類については直売を行なっています。酒米は、小国町唯一の酒蔵「野沢酒造」の看板銘柄「羽前桜川」に使用されています。

今回の訪問を記事にしたい旨を伝えると、昌樹さんがゆっくりと話し始めました。

「普通の農家」

昌樹さん:オレは本当に「普通の農家」なんだ。会社をやっているわけでもないし、大規模に生産してるわけでもない。最近の風潮は、農家は何かデカいことやらないといけない!って感じだよね。

千晴:そうですね。メディアで取り上げられるのも、尖った農家というか、何か新しい取り組みをしている農家ばかりですね。

昌樹さん:そうだよなー。やっぱり、メディアで取り上げるのってすごく断片的な部分でしかないね。良い所ばかり切り取って、本当はどうなの?っていう「ホントのところ」を伝えきれていない。

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昌樹さん夫妻と、食べるタイムス編集委員。

千晴:じゃあ今日は、「ホントのところ」を話してもらいますね!

昌樹さん:そうだな。「普通の農家」がいるのだ、ってことをまずは知ってほしい。農業は生活や暮らしの一部だよね。なのに、メディアの影響もあると思うのだけど、農業をする=何かすごいことをする、っていうのが定式化されてしまって、農業の入り口のハードルが上がっちゃっていると感じるよ。

みんなで、速く、遠くへ

千晴:前に昌樹さん家にお世話になりましたよね。あの時、昌樹さんは一日中、ほとんど何も仕事していなかったな、と思って…。「頑張ってない」なあ、と思ったのですよね。笑 もちろんいい意味で。仕事だけやっているわけではないというか。

昌樹さん:これはね、ここまでの人生で気づいてきたことで。若い時は遺伝子組み換え作物の反対運動とかやっていたな。でも、これはオレのする活動じゃないなって。もちろんとても大切だし、重要な問題だけど。農家って、作物を栽培することが1番なのに、本職以外のことに熱心になるのは本末転倒だなって。

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夏真っ盛り。昨年7月の昌樹さんのお花畑。

千晴:うーん。

昌樹さん:結局、承認欲求とか自己満足だよね、そういうのって。まぁ若さの特権だけど。スタンドプレーを続けている限りは、承認欲求とか自己満足の呪縛から解放されない。だからね色々な失敗を積み重ねて己自身を知ることで、人間って大したことない存在だな、って気づいたよ。

千晴:速く行けるか、遠くへ行けるか、みたいな話ですか。

昌樹さん:うん。南海キャンディーズの山ちゃんの小説「天才はあきらめた」の解説文に、オードリーの若林がこんなこと書いているんだよね。「人間は英雄ではなく、1人の人間であると気づいたと同時に人生が始まる。」って。若い時は、一角の人物になりたいってみんな思うよね。でも、一角の人物になんてなかなかなれっこない。チームプレーで同じ志を持った人と一緒に行った方が、早く行きたいところに行けるよね。ちょっと受け身になって相手のことを考えて、鳥のように上から俯瞰して見ようとする。すると、ちょっと余裕ができて、この人と一緒に行ったら遠くへ行けそうだな、とか、周りの人が見えるようになってくる。色々な道があることを認識してどの道を行ったら良いか、この道に行くならこの人と一緒に行けばいいな、とかね。

農家って仕事、どうですか。

千晴:ちょっと余裕ができてくると、農業界もよりフラットな視点で見ることができそうですね。最近は、農業に関心を持っている若者も多い印象です。彼らが口を揃えていうのは「ワークライフバランスがとれそう」ということですが、どうなのでしょう。

昌樹さん:個人事業主としての農家の特徴は、オンとオフがはっきりしていることだな。もちろん栽培作物によって変わるけど農繁期には忙しいけれど、農閑期には余暇を楽しむ、そんな感じだな。

小蒔ちゃん・栞ちゃん:家に帰ってきたら、お父さん(昌樹さん)いつもHuluで映画見てるか、ドラマ見てるかだもん。仕事してないよ。

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小蒔ちゃん、栞ちゃんと。昨年の田植えの様子。

昌樹さん:うん、保育園の時は娘2人の送り迎えもオレがしていたな。

千晴:じゃあ、ワークライフバランスは取りやすいって認識で良いのですかね。

昌樹さん:それは難しいところだなー。毎日最低限の仕事や翌日の準備はあるし、農繁期が無くなることはないからね。メリハリがあるだけで仕事を一年中同じくらいの量にすることは、特に冬季間とかは難しいかな。昔みたいな牧歌的な生活は実際には苦労が多いかな。「アルプスの少女ハイジ」も、表面的には牧歌的だけど、おじいさんが裏でメチャクチャ働いているからね。笑  山羊の世話して、ご飯作って…って。

千晴:「アルプスの少女ハイジ」をそういう風に見ますか、面白いですね。笑 あと、やっぱり収入は気になりますよね。天候などの不安定要素があるだけに、なかなか安定させるのは難しそうですね。

昌樹さん:うーん。これはどの職業についても言えると思うのだけど、保証なんてないよね。しなくていい心配はしなくていいのかなって。10年後のことなんて分からないじゃない。先を見るより、自分のこと、家庭や子供のこと、明日のこと。「いま」が将来のために楽しくなくなるのは嫌だな。「いま」を犠牲にしたくないよね。もちろん、不安はあるよ。売り上げとか。最近は輸送費や資材の高騰とか、不安材料は増えてきているとは感じるよね。

千晴:そういう不安を乗り越えた先に、年一度の収穫が待っているわけですよね。

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食べるタイムス主催のイベントにて。昌樹さんが育てたお花と一緒に。
写真左は、昨年夏に昌樹さんのところでインターンをした大学生!
芽かきをしたお花、きれいに育ちました。

昌樹さん:収穫自体は割と単純作業で、淡々と進めている感じ。一番嬉しいのは「売れた時。」「注文が入った時。」だな。おいしいとか、きれいとか、そんなのは農家としては当然で。欲しい人の手元にきちんと届く(売れる)ことが大事。そして買い続けてもらうことがすごく嬉しい。一度だけ売ることなんて簡単だよ。でも、買い続けてもらうことは難しい。一度買ってもらって、「このお花良かったな。」って思ってもらう。「もう一度注文しよう。」と思って、連絡先を見てまた注文してくれる。それは、商品を「評価」してもらえたからだよね。お客さんに喜んでもらえた、ってことでもあるからね。

昌樹さんの熱いお話はまだまだ続きますが、前編はここまで。

後編では、小国町の地域おこし協力隊の方にも加わっていただき、「農業のこれから」を語っていただきます。


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