マタギの人付き合いは、『星の王子様』のそれと似ている【編集部コラム】

in 山形/山形県小国町/東北/編集部から/食べタイ編集部
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マタギの人付き合いは、『星の王子様』のそれと似ている。

 星から地球に降り立った王子様は、一匹のキツネに出会う。「ぼくと遊ぼう」と声をかけるが、キツネは「きみとは遊べない なついていないから」と答える。

 「なつく」とは何か。それは、現代社会で忘れられた“絆を結ぶこと”だ。

文:森山健太

 ぼくらが初めて、五味沢集落のマタギのみなさんに山に連れて行ってもらったのは、秋だった。薪を拾い、山小屋に積んだ。冬になると、腰の高さほどの雪を6時間ひたすら漕ぎわけ山小屋に到着。秋に積んだ薪で暖をとり、吊り橋に積もった雪を下ろした。そして春、吊り橋を渡って、熊狩りに同行した。

 季節はめぐり、夏。マタギの年長者に、10月のツアーに協力してほしいと企画書を持っていった。ところが、帰りの車中で、繋いでくれた若手マタギの夫妻に厳しく叱られた。

「ぜんぶ見透かされてると思った方がいい」

 それは、ちょっと来ただけで訳知り顔になり「地域のかけがえのない人たち」をネタにして食っていく余所者たちを見てきたマタギの怒りだった。では、どうすれば信用してもらえるのか。

「結局は、言葉じゃなく身体で示すしかない。時間がかかるんだ」

 巨大な熊にチームプレーで挑むマタギは、「命を預けあうような」深い人間関係を築いている。まして、マタギになるために移住してきたこの二人は、受け入れてくれた先輩方との関係性をどれだけかけがえなく想っているのだろうか。

 ふたたび、秋。ツアー当日。ぼくを叱ってくれたその方は、夜の宴会で、はにかみながら口上を述べた。

「みなさん。ここにいらっしゃるのが、私の大切な先輩方です。彼らがいるから私はここで生きることを決めました。今日はこの出会いを存分に楽しんでください」

 彼女は「いちばんたいせつなもの」を明け渡してくれたのだ。涙がほろりと頬を伝った。

 王子様になついたキツネは、別れのシーンで“絆を結ぶ”とはどういうことか明かす。私ごとに引きつけて、言葉をおきかえて読んでみたい。

「じゃあ、秘密を教えるよ。いちばんたいせつなことは、目に見えない。マタギをかけがえのないものにしたのは、きみが、マタギのために費やした時間だったんだ。そしてきみは、絆を結んだものには永遠に責任を持つんだ」

 だからぼくらは、これからも会いにいく。絆を結んだ、世界でたったひとつの関係性をたずねて。

参考文献:サン・テグジュペリ『星の王子様』(河野万里子訳、新潮文庫、2006年)


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