連載シリーズ「無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか」
いまはマタギもスマホを使う時代だ。しかし、山中ではスマホは使えないので、「無線機」を使う。だが、かつて「無線のない時代」もあった。そのころ、東北のマタギたちはどのように山を歩き回り、集団で意思疎通してクマを捕らえていたのだろうか。マタギ界のオピニオンリーダーに聞く。(編集部 森山)
語り手:斎藤重美さん
山形県小国町猟友会の副会長。10代でマタギになり、現在まで約100頭のクマを仕留めてきた。
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第三話 マタギの頭の中の “図面”
— クマを捕まえるためには、山をどれくらい覚えないといけないか?
おれらの頭の中には、“図面”が入ってんだ。クマ狩りで歩くときは、道路はねぇし、登山道からも外れるよ。だから地図なしで自在に山を歩きまわれるようにならないといけねえ。
— なにがポイントになるか?
特に「沢」だ。マタギが覚えるポイントは無数にある。沢だけでなく、山の崩れたところとかよ、一つ一つに名前がついてるし、ぜんぶ頭の中に入ってる。
たとえば、クマが逃げていったら、「その先に小さな木がある」ってわかる。「こういうとこさクマさいるけどどうしたらいいべ」と仲間に聞かれたら、それが二つも三つも向こうの山の話でも「そのクマは小さな木のとこさ行くから先回りすればいいよ」と言う。それで全員が「あの場所か」と理解できるんだ。
— すごい会話!
“図面”は、クマ狩りシーズンだけでは完成しねぇ。オールシーズンで作るんだ。たとえば、クマ狩りの時に、「この雪の上はちょっと危険そうだが歩けるのか?」という道に出会ったとするべ。そこをいくか、いかないか。これは、秋と冬に山を歩っていなければわかんねぇんだ。
まず、秋のうちに雪のない山を覚えておく。そして、冬に雪の積もり方を見ておく。それぞれ照らし合わせて春の本番に「このぐらい溶けてるけど、どうだ」って判断できるわけよ。
▲慣れないと判断をあやまって落下することも
— そこまで何年かかる?
オレは3年目くらいで、まずある程度の山のことや沢のことを覚えた。50年以上歩いて、さっぱり山覚えんかったやつもいる。お前どこいたんだと聞くとよ、「空あって雲あって松の木あって…」おいおい、あたり一面ぜんぶじゃねぇかよって(笑)。
— “図面”はどこまでいけば完成する?
いや。山行くたんび、木が倒れていたり、さまざま条件変わってくるから、新たに入れねばなんね。そしたら若いやつに「そこ行けば、木が倒れてっから」と教えられるしな。だから次の勉強というかよ、毎年ほれ、山の様子も変わるからよ。そのくらい覚える気になれば山も覚えるからさ、一人でも歩けるようになるよ。後ついてくだけで、自分の頭を使う気のないやつは、何年たっても一人は無理だ。
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