今春から6月にかけて、多くのメディアで話題になってい
野口 俊(兵庫県)
淡路島にて、「mama-yasai」の栽培に取り組む若き農家。野菜で子どもたちを笑顔にしたい!という信念のもと、品種品目選び、土づくり、生産、収穫のすべてを行っている。
大串 勲(佐賀県)
佐賀を代表する若手玉ねぎ農家。完熟吊り玉ねぎの栽培を行う。2016年7月に創刊された食べものつき情報誌『SAGA食べる通信』で特集された記念すべき第1号生産者。
Qまずはじめに、「べと病」について教えてください。
野口:お野菜全般にかかる病気です。玉ねぎの場合は4月~5月頃にかかる可能性が高く注意が必要です。なぜなら、15℃~25℃の時期がすごく活発に活動するからです。
Qなにが活発に活動するのですか?要因もわかれば、お願いします。
野口:カビ*1のようなものです。雨や湿気が大好きなのです。今年は、暖冬で雨も多かったので、べと病菌にとっては絶好の気候でした。感染力が強く、風にのって遠くまで胞子が飛んでいくので、広範囲で被害が出やすいんです。
*1糸状菌と呼ばれる菌(一般的にカビと呼ばれる)
大串:佐賀県には玉ねぎ部会があります。そこでは、原因が特定されてはいませんが「1月の大雪の被害ではないか」「連作障がい*2ではないか」という推測での話は出ています。
*2同じ野菜を同じ場所で続けてつくること(JA信州うえだHPより)
Q「べと病」にかかるとどうなるんですか?
野口:葉っぱは黄色や白色になり、ヒドイ場合は枯れてしまいます。葉っぱがない(弱っている)と光合成できませんよね?なので、玉は大きくなりません。 また葉っぱの弱った部分から、他の病原菌が入って、違う病気を引き起こす可能性も高くなります。人間も傷口から何かの菌が入ることがあります。それとまったく同じ状態です。結果的に大発生すると玉ねぎの全体としての収穫量が激減します。品質も悪くなる可能性が高いです。
大串:佐賀県は全国ニュースに取り上げられてしまうほど、全域で流行りました。僕のところで、収穫量が例年の2割減、多いところでは、1/3の減少など被害はとても大きいです。できている玉ねぎも小ぶりなものが多く、Lサイズが例年より少なく、Mサイズなどになっています。
Q「つくる」「食べる」両者に影響がある気がします。、私たち「食べる」側にできることがあれば教えてください。
野口:べと病に関して、消費者への影響はとくに影響はないのかな?と思っています。流通する玉ねぎの多くは簡易な検査を受けて、等級に分けられています。もちろん病気のものや腐敗したものは、検査でそれぞれ落とされますので、スーパーなどで並んでいるものについては、今まで通り安心して食べていただけます。
影響があるとすれば、『価格』だと思います。検査をパスする玉ねぎ(いわゆる秀品・一等品)が、例年に比べるとかなり少ないので、供給が追いつかず、国産玉ねぎの価格が高騰する可能性はあります。
ただ、価格が高騰しているといっても、多くの生産者は収穫量が激減しているので儲かっているわけではありません(むしろ減収だと思われます)。そこは、消費する側の方も分かって購入していただければ嬉しいなと思います。
大串:べと病は毎年発生する、人で言えば「風邪」と同様のものです。玉ねぎに限らずどの野菜にも発生する病気であり、この病気自体による人体への害はありません。 今年は収穫量が少なくなっているため、佐賀の玉ねぎは少し価格が高騰するかもしれません。しかし、市場に出回るものは厳しい検査を通過したれっきとした佐賀の玉ねぎであるので、スーパーなどで見かけたら買ってほしいです。今回の被害で一番悲しんでいるのは誰なのか考えていただければ嬉しいです。
Q「つくる」側への具体的な影響を教えていただけますか。
野口:まずは、減収。これが1番大きい影響だと思っております。先にも述べましたが、べと病というのは、すごく厄介です。一度、感染すると生育に甚大な影響を及ぼします。
・葉っぱが枯れてしまうことによる、小玉化。(大きくならない)
・葉っぱの傷口から他の病気へ感染(腐敗)
それと感染力が強く広範囲に胞子が飛び回るので、地域内に感染が広がってしまうことが怖いです。 例えば、
野口ファームから500メートル離れたところに、Aファーム。 Aファームから500メートル離れたところに、Bファーム。 があるとします。野口ファームがべと病に感染してしまうと・・・ まず、風に乗ってAファーム、その次はBファームへと。
風が吹くたびにどんどん胞子が飛ぶので、1㎞ぐらいはすぐに感染してしまいます。こんなペースであちこちで感染が始まるともう止まりません。あと、これからの課題は、べと病の菌は10年以上、土の中で生き続ける事です。言い換えると一度、大発生してしまうと、10年間はいつ大発生してもおかしくない!というリスクを抱えてしまいます。終わりなき戦いの始まりです。
大串:佐賀の場合、今年は九州全体で大雪・地震・大雨と、不作の年だと思っています。私のところでは、他の野菜も葉が枯れ始めており、これもべと病ではないかと考えています。
Q「べと病」にかかってしまうと、長期戦になりそうですが何か対策はありますか?
大串:今回は被害が大きかったため、防除のタイミングや頻度を上げたり、病気に負けない野菜づくり、土づくりをしていこうと考えています。べと病を始め、病気となる菌に負けないようにするためには、土壌に微生物を増やしたり、様々な堆肥や肥料の見直しをしたりしています。
佐賀には、玉ねぎ部会がありますが、全体で対応するような雰囲気はありません。それぞれの農家で生産する時期や種類が違ったり、それぞれがいわば経営者であり、こだわりを持って生産しているので、一概にどの薬が有効かなどを共有するのが難しいからです。個々の対応に委ねられていると言えます。
野口:野口ファームもべと病の被害がありました。収穫間際には、かなりの範囲で感染してしまいましたが、感染時期が収穫直前と遅かったため、大きな減収にはつながらなかったです。 玉ねぎは収穫1ヶ月前ぐらいから、一気に大きくなります。逆に言うと収穫の2~3ヶ月前にべと病に感染してしまうと、全然大きくならずに、止まってしまいます。
うちの場合は、とにかく感染を遅らせるために、徹底した計画防除と管理をしました。
それが功を奏したんだと思います。 僕が農業をしている地域はとくに被害が大きいと思います。玉ねぎの葉っぱが全て枯れて、茶色い畑がすごくたくさんありました。
(本来は緑一色)
「こんな光景をみるのは、今まで農業をしていて初めてだ」
と先輩農家さんは、みんな口を揃えて言っています。
これから10年間以上は、今年大発生した地域では、かなりリスクを抱えたままで、玉ねぎの栽培をしなければいけないと思います。発病の要因は気候によるものが多いですが、少なくとも今年に近い気候であれば、再び大発生する可能性が高くなります。べと病は、厄介な病気なので地域ぐるみで菌密度を減らしていく取り組みが必要だと思います。
ここまで大発生した中でも、ごく少数ですが、同じ地域で被害がなかった方がいます。肥料や農薬、生育の管理など、たまたまかもしれませんが、栽培方法にべと病に対抗する何かがあるはずです!これから、どんどん情報収集して、来年もしっかり、おいしい玉ねぎを育ててみせます♪
〜さいごに〜
今回お話を伺った野口さんと大串さんからは、「べと病と前向きに戦っていく」強い姿勢が感じられました。私たち消費者が理解しなければいけないのは、
べと病が、どの野菜にも発生する病気であり、この病気自体による人体への害はない
ということ。佐賀では、規格外の玉ねぎをドレッシングなどに加工し利用する取り組みも行われているようです。日本各地で、美味しい玉ねぎが収穫され食卓に並ぶよう、これからも生産者のみなさんのチャレンジを応援していきましょう!
ご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。
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協力:『SAGA食べる通信』編集部のみなさま
作成:日本食べるタイムス編集部