【編集部の夏休み10】「一騎当千の農家になれ」~大規模生産法人が見すえる未来~

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一ヶ月にわたる農家を回る旅・Full Bag Tourも中盤戦に入った。

この日は、長野県南佐久郡南牧村の農業法人「株式会社アグレス 」(以下、アグレス )を訪問した。

アグレスは、2006年に設立された農業生産法人。

標高1300メートルを超える野辺山高原の冷涼な気候を生かして、ホウレンソウ、レタス、キャベツなどの葉物野菜を、市場価格の高い夏に生産・出荷している。

15ヘクタールもの広大な土地を持ち、ハウスの数はなんと250棟。社員は10名、外国人実習生が14名、夏季のみの期間パートが60名にのぼる。

これほど大規模に経営している農業法人は、日本でも類を見ない。

野辺山一帯は、標高1300メートルを超える高原地帯。夏でも涼しい気候を生かした高原野菜の栽培が盛ん。この日の気温も25度ほど。

社長の土屋 梓(つちや あずさ)さんと、未来開発室長の山浦 昌浩(やまうら まさひろ)さんにお話を伺った。

大規模生産法人・アグレス

―アグレスと聞くと、大規模生産法人、というイメージです。大規模な農業を行うには、いろいろなハードルがありそうですね。

「うちのメインの品目は、雨よけハウスで栽培するホウレンソウです。ワンシーズンに3〜4回作付けを行いますが、とにかく収穫に手のかかる品目なので、ほうれん草の収穫シーズンには、近隣からパートさんに来てもらっています。」

収穫されたホウレンソウ。茎など、非常にデリケートな野菜なので、手作業で収穫する。

―人件費が相当かかりそうですが。

「そうですね、人件費は相当かかっています。でも、期間の決まったパートさんよりも、社員や外国人実習生の雇用にはよりお金がかかります。

経営規模を拡大する中で、社員も多く必要になります。社員は、もちろん通年雇用ですよね。制度の関係上、仕事の有無にかかわらず、賃金と管理費等で最低毎月15万円以上の経費が掛かります。

しかし、ここ野辺山は冬は雪に閉ざされてしまうので、働いてもらいようがない。じゃあどうするか。」

社内での産地リレー

―うーん。どうすればいいですかね。

「うちの答えは、「野辺山以外に畑を持つ」ことでした。野辺山で作業ができない冬の時期には、他の畑に行って働いてもらえばいい、そう思ったんです。

そこで、冬の間だけ、埼玉県の上里の出荷組合からネギやハクサイの管理・出荷作業を受託しています。冬は埼玉で、それ以外の季節は野辺山で働いてもらう。言うなれば、「社内での産地リレー」ですね。

会社としても、通年でモノを出せる会社は強い。いいことづくめです。」

外国人実習生の現状

―なるほど。いま少しお話に出てきましたが、外国人実習生について伺いたいと思います。巷では、外国人実習生が逃げ出したり、素行が悪かったりと、あまりいいニュースを聞きませんが。

「いや、とても真面目に働いてくれていますよ。もちろん、本人の見る力、吸収しようという意欲によっても異なりますが。正直、実習生がいないと回らない、それが現状ですね。

社員でも、パートさんでも、実習生でも、関係ないですよ。」

―そうなんですか。

「あと、社員やパートに比べて、ほぼ確実に採用できるんです。社員やパートさんを雇うとなると、募集をかけて、面接して、書類に目を通して、と、とにかく手間がかかってしまうんですね。でも、実習生なら、派遣業者への連絡・申請で済んでしまいます。運がいいだけかもしれませんが、本当にいい実習生ばかり来てくれます。」

小売店との年間契約

―大規模な生産法人となると、やはり農協への系統出荷が中心ですか?

「半分は農協への系統出荷ですが、半分は契約販路です。うち(=アグレス)と、場内の仲卸業者、そして運送会社の三者で一体となって、小売店と年間契約を結んでいます。ホウレンソウであれば、出荷が始まる前に、ホウレンソウのシーズンを通しての価格を、仲卸と交渉して決定します。春の市場価格が安い時でも、夏の市場価格が高い時でも、いつでも同じ価格で取引をします。この販路であれば、市場価格に左右されず、安定した価格で販売することができるわけです。」

一騎当千の農家になれ

―では、農業界の未来についても伺いたいと思います。これから、どのような農家が必要になるでしょうか?

「経営者としての農家、だと思います。生産や事務など、全体を全て把握して、仕組みや組織づくりをできるような人のことです。私たちはそれを「一騎当千の農家」と呼んでいます。

今の新規就農者は一年に2万人前後とされていますが、そのうちの1000人でも、500人でもいい。経営者としての農家を育てる必要があると思います。」

―なぜ、経営者が必要なのでしょうか?

「今の農業は、国によって守られている産業です。市場出荷調整の補填として国から補助金が出たりと、とにかく農家が制度によって守られています。これでは、現状を打破しようなんて農家は、出てこないのではないでしょうか。

農業の体力があるうちに、制度に頼らない農家を増やさなければならない。そのためには、物事を多面的に見ることができる人や、金銭管理をしっかりとできる人が必要と考えます。私たちはそれを、経営者と考えています。」

写真左が、未来開発室長の山浦昌浩さん。写真右が、社長の土屋梓さん 。

―具体的に、どうすれば「一騎当千の農家」になれるでしょうか?

「個人的な意見ですが、圧倒的な経験を得て、視野の広さを身につけることだと思います。今は時代の流れもあるのか、保守的な農家さんが多いイメージで、変化を嫌ったり、学ぶ・挑戦することにポジティブでなかったり、そんな農家さんが多いと感じています。人手がないため、忙しくて動けない状況なんだとは思いますが。

そうではなく、挑戦を通して、その先にある未知の出会いなどの豊かな経験や、トライアンドエラーの中から、多様性や柔軟性、学ぶ姿勢を身につけなければならないと考えています。

これらの能力が、農家を一皮剥けさせ、農業界を明るい方向へ引っ張ることと信じています。」

「実は、若手農家の可能性を広げるための、『農スタ』というプログラムを始動させています。若手農家に必要な視点、経験を、カンボジアへの旅を通して獲得することを目的とするものです。

旅費は、独自通貨「アグル」で支払うことができます。「アグル」を貯めるためには、農家で農作業をする必要があります。旅費をカバーできるくらいに農作業ができるかどうかはあなた次第。

さあ、君は農作業でカンボジアへ行けるか?チャレンジャー募集中!」

https://www.agres-nobeyama.net/blank-13

書き手:食べるタイムス編集委員 山坂千晴

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