【特集】牛の砂に2億円かけた牧場が目指す酪農の新世紀とは【後編】

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【特集】農業ビジネス

農家の3Kイメージ「きつい・汚い・給料低い」を覆す生産者たちを大特集!農業をビジネスとして成立させるための「クリエイティブな」視点に迫りました。彼らのマインドは、一次産業界だけでなく、幅広いビジネスシーンで通じるはずです。


藤井雄一郎(ふじいゆういちろう)さん
今年で創業115年目を迎える北海道富良野市藤井牧場5代目代表。
代表就任3年後の2012年に国内初となる農場HACCP認証を取得。
昨年には、富良野藤井牧場直売カフェをオープン。
2014年には台湾で行われた物産展に参加、2016年には同じく台湾で単独催事を開催。

「牛も人もどんどん育てる牧場」というスローガンのもと、100年先の未来を考え、マーケティングや海外進出など新しいことに挑戦し続ける牧場。それが藤井牧場である。代表の藤井雄一郎さんの取材を進める中で21世紀の新しい酪農のあり方が見えてきた。

(前編からつづく)

ブランドロゴの秘密

「ブランドロゴである牛。これはあえて“寝ている牛”にしているんですよ」と藤井さん。
その牛には生産現場を経験した人のみぞ知る秘密が隠されている。

小さい頃、お母さんに「食べてすぐ寝たら牛になるわよ」と言われませんでしたか?酪農家に言わせれば、それは本当のことなんですよ。
というのも、牛にとって一番重要なのは“寝る”っていうことなんですよね。牛がベッドに寝ている時間は、胃腸で消化吸収できる時間です。ですから、牛がベッドで寝ている時間を増やせば、牛が健康になる。そして、たくさん牛乳を出して生産性が伸びます。これは、現場の人なら誰でも知っています。

その取り組みとして、うちでは2億円かけて、日本で初めて、砂のベッド(砂の敷料)というのを入れています。それくらい寝るということ一つに対してこだわっているというのが表れる中で、寝ている牛をロゴマークに使っています。

ーなるほど・・・

言葉一つに関しても、現場を知っている人と知らない人では全然違ってきます。「この牛乳を作るまでにどのぐらいの期間をかけてどういうことをして作っていますよ」と語れる人間じゃないとダメだと思うんですよね。それはやっぱり体験しないとわからないですから。しっかり噛み砕いたことの上にブランディングとかをのっけていかないと自分たちの発信するものとしては本当の言葉にならないです。

「一番大切にしたいのは生産現場」という藤井代表の言葉には二つの意味がある。
一つは生産現場を理解するということ。もう一つは、現場で働く人のことである。

100年後を見すえて

藤井牧場は長い歴史のある牧場である。そして、輝かしい業績を持ち合わせている。
そんな先祖代々の意思を受け継ぐ、藤井代表の想いや意識はどこからきているのか。
そこには現場で働く人への熱い想い、日本に未来に対する想いが隠されていた。

▲共に働く社員たち

将来に対する展望を働いている人が持てるようにしていくっていうことが大事なのかなと思っています。

2040年の北海道の女性の人口動態を見てみると、20歳から40歳が現在に比べ、約半減しています(注1)。ということは、今後、20年後30年後というのは、恐ろしいほどの高齢化、過疎化が進んでいくわけですよ。そういった中で一番大事なのは経済活動を行なっていけるかどうか。お金を稼いで、地域に還元していけるということができていないと地域自体が悪化していってしまうんです。

ーやっぱり、北海道に対してのふるさと意識というのが根幹にあるのですか?

それはですね、開拓民の5代目ですけども、開拓者としての想いというのは非常にあります。「酪農の仕事は100年仕事だ」という、酪農の父の宇都宮仙太郎が言った言葉があるのですが、初代は開墾しているときも、孫子のためにという話でやっていたわけじゃないですか。

100年だとするとうちは既に114年経っているので、これからの先の100年を考える必要がある。自分たちがしていかなければいけない開拓とは一体なんなのか。先祖が苦労して切り開いていった土地を、さらに100年後まで運営していくための道を作っていかなければいけない。それを継承している人間ですから、そういった使命感というのは非常に強いかなと思います。

酪農って1年2年ですぐ結果が出るわけではないですから、10年後、20年後、30年後、どう切り拓いていくかというところを考えています。具体的には、「牧場の分社化」。広大な北海道の土地に牧場を複数つくり、将来は牧場同士で技術を競い合える、そんな組織を目指していきたいです。それと同時に、牧場で働くスタッフには、自分自身で目標を設定できる「成長支援制度」を活用し、将来牧場長になれるような人材になってほしいと思っています。

今、酪農は新しい世紀に入った。今までは食料供給基地として、ただただ牛乳を生産すればよかった。だけど、今は、マーケティングや海外進出などを見すえた、新たな酪農の形が展開され始めている。そういったことに果敢に挑戦していくということも「新世紀牧場」の一つの意味合いなのかもしれない。

注1:国立社会保障・人口問題研究所の統計によると、北海道全体の20歳から40歳までの女性の人口は2015年には約65万人だったのが2040年には約36万人に減少している。

書き手:山村奏(食べるタイムス編集部)


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