マタギが見る、山の世界をのぞいてきた(小国町 齋藤初男さん)

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東北地方の豪雪山岳地帯に居住し、古くから伝えられてきた儀礼や作法を守り、集団で狩猟を行なう “マタギ” 。鉄砲を駆使して熊やうさぎなどを狩る姿をイメージする人は多いのではないでしょうか。

山形県小国町の五味沢地区で、私生活の傍ら狩猟を行う齋藤初男さん(67)。山に入るようになってあと数年で半世紀を過ぎるそう。

厳しい雪山に臨み、自然と対峙するマタギ。その道を選んだ初男さんに、マタギの世界を伺ってきました。

 

 

〈書き手〉学生編集部員 田丸さくら(20)

 

手に入りづらい時代だったから

ー初男さんはなぜマタギになったんですか?

肉くいたくて。

ー本当ですか?!

うん。熊肉でもうさぎでも、なんでも肉食べれたらいいなと思って。純粋に。
もう一つのきっかけは、親戚の人がよ、鉄砲やるから免許取ってこいって言われたんよ。まさかこんな美味しいことないんじゃないのって(笑)。

ー手に入りづらい鉄砲も手に入り、始めるチャンスだったわけですね。もともと山や狩りへの興味はなかったのですか?

そんなに熱はなかったなあ。嫌いだったら続いてないから、嫌いではなかったけどな。

マタギのみなさんと食べるタイムス編集部員。手前の赤い帽子を被っている方が初男さん、右から2番目が田丸。
後ろに少し写っている建物が、寝泊まりや休憩をする山小屋です。

初男さんと初めてお会いしたのは、2018年1月。山小屋へ向かう橋の雪を落としに山にいかないかと女性マタギ・紘子さんに誘っていただいたことがきっかけです。
東北きっての豪雪地帯である小国町。腰ほどもある雪山を歩いて行くと、私たちが進めるようにと先に歩いて道を作ってくれていた初男さんや仲間の方がいたのです。私たちを先導しながら、かんじきを履いて進む初男さんの背中は、大柄というわけでもないのにとても逞しいことが印象的でした。

先頭となって進む初男さんと、それにつづく編集部員

ー雪山に同行させていただいたとき、ご自宅で話している初男さんよりハツラツとしていたように感じましたが。

そうか…。今は息抜きになっているな、たしかに。
年々好きになっているな。

ー47年も山に入っていても、いまだにですか!

いまだに。
昔は楽しくてしょうがねえってことはなくて、この土地に生まれてその道に入ったから、いやでも行かなくちゃなんねえかなあというのは多少あったな。
けど今は、ほとんど毎週山行くまでになったな。

ーそんなに…!山に入ることが日常なのですね。

そうだな、ムズムズしてくる。いかねえと。
何回行ったって同じ条件ってないでしょうよ。いくたんびに違う。
やっぱそういうのがいいのかなあ。

知れば知るほど、奥が深くなっていくんだな。
今でもわからないことが半分以上もある。

雪化粧をした小国の山々。初男さんは、冬のしんとした山が一番
好きで、1人で山に入ることもあるそうです。

日々、山と真摯に向き合い、山への想いを深めていく初男さん。
マタギとして山に入り始めたばかりの頃は、鉄砲は不発となることもある、双眼鏡や無線などという便利なものはない中で向かっていたそうです。そんな当時を振り返り、マタギたちの技術はものすごかったと話します。

驚異的な視力

昔の人はよお、熊をこう、遠目にして見てるわけだ、1kmも2kmも離れてるのをよ。(当時の)おれらみたいな若い衆は心配でどうしようもないわけよ。それが本当に熊なのか。先輩にそんで聞くわけよ、

「あそこに真っ黒いものがあるけども、さっき動いてたんだから熊でないか。見てくれ」

そうすると

「うん、今目パタパタっていわせたから熊で間違いない」

とかって言うんだ。

ーえぇ…。そんな遠距離の熊なんて山の中の“点”じゃないですか。

けどそれで本当にいるんだ。本当に慣れないうちだとまあわからないもんだ。
雪の上にピタッと寝れば、もうほんと動かないから。そこに行くまでに動いているのを見てたわけよ。けどそのもの見ててもわかんなくなるから。

双眼鏡も無しで見た向かいの山。この状態から熊を見つける。

上の写真の一部を拡大したもの。この中に熊が写ってます!分かりますか?(答えは記事の最後に)

ー先輩たちから教わったことは尽きないですよね。

まあけど、あんまりああしろこうしろとは言わないな、この辺の人たちは。見て育った。今もほとんどあんまり言わないな。

ーこの世界に入り込むのは早くしないと、学び切ることができませんね。

かなり難しいんでねえか。

引き継ぎたい、初男さんの山との人生

「実際問題、今は肉屋から買ってきた肉の方が美味しいと思うよ。絶対」
一番好きなお肉はなにかと聞くと、冗談まじりにそう答える初男さん。
普段の食生活が豊かになり、山の肉(熊やうさぎなど)を取らなくても肉を食べることができる現代。初男さんといると、肉や毛皮を獲るだけではない、社会的にも人間的にも意義深いマタギの本当の姿をのぞいたように感じます。

今おれらの後輩が育たないというか入ってくる人がいないというか。
後継者いないからいつまでたってもおれみたいのが若い衆やってなきゃいけないんだ。

ー初男さんたちがいなくなってしまったら…。

やっぱり衰退していくんじゃないの、どこの地区もそうだと思うけど。
マタギの存在がなくなってしまったらかなりやばいと思うなあ。大変だと思うよ。

だから新しい人には入ってきて欲しいよ。あなたがいうようにこれからが心配じゃないの。けどこればっかりは行政がいくら動いても難しいんでねえ。

鉄砲撃ちを育てるっていうのは。

 

(語り:齋藤初男さん  アイキャッチ写真:早川史也)

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☆答え合わせ☆

正解は…こんなところにおりました!

この、点にしか見えない熊のまばたきで判断するマタギ…おそるべし。


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