第二話「なぜ山言葉があるのか」〜無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか〜

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連載シリーズ「無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか」

いまはマタギもスマホを使う時代だ。しかし、山中ではスマホは使えないので、「無線機」を使う。だが、かつて「無線のない時代」もあった。そのころ、東北のマタギたちはどのように山を歩き回り、集団で意思疎通してクマを捕らえていたのだろうか。マタギ界のオピニオンリーダーに聞く。(編集部  森山)

語り手:斎藤重美さん

山形県小国町猟友会の副会長。10代でマタギになり、現在まで約100頭のクマを仕留めてきた。

 

第二話 なぜ山言葉があるのか

— マタギの先輩は厳しかった?


山言葉はかなり厳しく教えられたな。上の写真は、「山ノ神のほこら」だ。クマ狩りに行くとき、ほこらまでは普通の言葉で行くわけよ。でも、そこから一歩でも入るとぜんぶ山言葉に切り替わるんだ。

 

—なぜ?

「ここから先は、山ノ神様に自分の命を預けました」という意味だ。礼儀というより、完全に神様の領域に入っていくんだ。だからそんなとこで「死んだ」とかいったら大変なもんよ。

 

— どうして?

仏さんに関する言葉だからだ。それいったら「お前、帰れ」と言われる。「帰るのやんだったら水垢離(みずこり)とれ」と。真冬でも川の中さ入れられる。すっぽんだかでペロンとよ。

それいやだったら、帰らねばなんねぇわけよ。そしてナァ…、また年寄りが、わざわざ里の言葉いうように仕向けてくるわけよ。

 

— それはいたずら?

若い者の気持ちを確かめるというかよ、引っかからないで山言葉でポンと言えれば「よしこの野郎は大丈夫だ」と。それで引っかかれば大変よ。

 

— では、決して意地悪ではなく?

いんや・・・今でいうイジメだな(笑)

 

— そんなことばかりだったら嫌だなとは思わない?

おれは思ったことはないな。この前やられたから、今度は絶対引っかかんねぇぞと。最終的には、変なこと言うとまずいからなんもしゃべんなくなった。

 

— なるほど(笑)

そういう風に山のこと覚えてな。あとはよ、山歩ってる時、山の名前、沢の名前とかって、年寄りからは絶対教えないからよ。

 

— 教えない?

わからねぇ時は聞かねばならねぇ。年寄りは聞かれないことは、お前わかってんだべと判断してしまう。そこで失敗すっと、お前なんで知ったかぶりして聞かねぇんだとなる。あと、二回聞くと怒られるよ、必ず一回で覚えねばなんね。

 

— つまり山言葉は、山のことを積極的に覚えるためのシステムか。

んだ。と同時に、「山ノ神様に命を預けました」っていう気持ちを育てるしくみだ。

 

第三話 マタギの頭の中の“図面”につづく

連載シリーズ

第一話「クマとの距離、2m」

第一話「クマとの距離、2m」〜無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか〜

第三話「マタギの頭の中の“図面”」

第三話「マタギの頭の中の“図面”」〜無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか〜

第四話「変えてはいけない掟」

最終話「変えてはいけない掟」〜無線のない時代にマタギはどうやってクマをとったか〜


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