関係人口は人を幸せにするか〈後編〉〜農村に眠る、2つの関係人口ニーズ〜

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【前編からつづく】

前編では、農村(熊本県多良木町)を「平野部」と「山間部」の2つに分類した。後編では、農家さんへのインタビューを通じて「若者に何を求めているのか」を聞く。すると、2つの農村のニーズが、180度異なることが明らかになった…!

 

農村は、若者に何を求めているのか?

「おべんちゃらな人は来てほしくない」町の農業を本気でつなぐ覚悟

(農業生産法人 多良木のびる代表理事 深水吉人さんの話)

「おべんちゃらな人は来てほしくない。本気で農業経営をしたい人に来てほしい」と語ったのは、深水吉人さん。50ヘクタールの田んぼを有し、多良木町で最大の農業生産法人を経営している。深水さんの一番弟子の尾方伸一郎さんは、36歳の若きホープ。「農業を次代の担い手の子供たちに憧れられる職業にしたい」と話す。

 

お二方に共通しているのは、「町の農業を守るために全力を尽くす覚悟」だ。思うように稼げない農業の現状があり、担い手が不足していて…町の農業を取り巻く環境には課題が多い。だから必死に闘うのだ。

 

深水さんは「これまで250人もの学生やワーホリの若者を受け入れてきた」そうだ。若者が農村に入りこむことについて経験に裏打ちされた見解を持っている深水さんに、「学生を受け入れて良かったことがあるか」と聞いてみた。

 

「受け入れてよかったことは、ないわけではない。だけど、給料を払うほどの仕事はしてもらえない。若者もボランティアだが、受け入れる方はもっとボランティアだ。

今は、本気で農業やりたいという若者にだけ来てほしい。ワシらは本気じゃけん、気概のある子が来たら、田んぼの融通も気を利かせてやる。多良木の就農者は平均66歳。将来誰が農業やるんだ。やる人がおらんじゃけんな」

 

深水さんは将来も多良木町での農業、町そのものを存属させることを目指している。「おべんちゃらはいらない」と言うように、お遊びで手伝いに来る人を構う時間はない、というのが本音だろう。人数は多くなくて良い。むしろ少数精鋭が良い。町全体を巻き込み、多良木町の農業の課題解決にあたる「本気の若者」の到来を期待しているように思えた。

 

 

「お金よりも心」122人の限界集落、未来を愉しむ

(槻木集落のみなさんの話)

122人。多良木町の山深いところにある槻木(つきぎ)集落は、数字から見ればまさに限界集落だ。ただし、この122人は相当「濃い」。

 

黒木峰幸さんは、槻木集落のリーダーだ。土木建築会社の重役である黒木さんは、「槻木で温泉を掘ろう」としている。地域のリーダーが自ら提案して、集落のみんなで面白そうな活動を語り合っている。

熊本の都市部から槻木集落にIターン移住した遠藤眞一郎さんは、槻木の人々の援助を受け、夫婦でレストランを開業した。将来、レストランの中にフリースクールのような居場所づくりをすることが夢だと話す。「お金ではなく、心のやり取り」を大切にする遠藤さんの価値観は、槻木集落の価値観でもある。

 

“テヤンス!”

 

これは、槻木集落に伝わるお酒の席での「サカズキ」という習わしである。お酒を注いでもらって飲む際には、必ず“テヤンス!”と感謝を述べてから、お酒をいただかないといけない。

私たちも、黒木さんのお宅で宴会に混ぜていただいて、「サカズキ」をした。どんどんお酒が注がれるので、“テヤンス!” “テヤンス!”と繰り返した。その結果、心が通い合い、宴会の最後には肩を組み合い兄弟の契りを交わしたのだった。

また槻木には狩猟文化も残っており、鹿肉や猪肉をいただいた。こうしたお肉も集落の人々で分け合って食している。槻木の方たちは都会から来たワケのわからない学生とも肩を組んで鹿肉や猪肉を食らい、酒を飲みかわしてくれたのだ。

 

槻木の人びとは、お互いを認識している関係の中で生活をしている。いわば「122人の大家族」なのだ。その中には、遠藤さんのようなIターン移住者も含まれる。さらに、槻木の人びとは「大家族」で面白いことを考え、楽しくただ前向きに生きている。限界どころか、明るい希望に満ちているように感じる。

 

「自分たちも大きな家族の一員になっている」。宴会の中での心のやり取りを通して、そう思わずにはいられなかった。「お金ではなく、心のやりとり」を大切にする槻木集落には、「お金ではなく、心のやりとり」を求める若者の来訪を歓迎する雰囲気があった。

 

「若者」と「農村」をうまくマッチングさせる

同世代の若者が満たされたい感情は、農村ならばどこでも満たされるわけではない。多良木町でいえば、平野部が「地域を何とかしたい」若者に当てはまり山間部が潜在的に「自分自身が助けられたい」若者と相性が良さそうだ(深水さんの証言からは、本当に「地域をなんとかしたい」若者はごく少数であることがわかる)。

 

若者とのコンタクトは、いずれの農村部でも求められているが、地域を担う覚悟のある若者に来てほしい平野部では「つよい関係性」が求められる傾向があり、一方、集落を楽しく盛り上げる若者に来てほしい山間部では「ゆるい関係性」が許容される傾向がある。

 

以上をふまえて「若者」と「農村」をマッチングすれば、それぞれのニーズを満たす『人を幸せにする関係人口』を創出できるだろう。

 

と、ここまでとことん若者目線で論じてきたが、実際には農村において若者が果たせる役割はほんの一部であろう。だが、何かしらの貢献はできるはずである。もしも、私たち食べタイが多良木町の2地域に「関係人口」として関わることになった場合、どんな貢献ができるのだろうか。

▲槻木集落の女性たち。農に生きる男たちを支える生き方もまた、魅力的であった

 

①文化の発展的継承【山間部】

狩猟文化や「心のやり取り」といった集落独自性に若者は惹かれ、さらに価値観に共鳴することも考えられる。その結果として、集落内部の人たちには発想されない文化の発展的継承といった動きが出てくるだろう。

 

②SNSの活用等による、間口の広い関係人口づくり【山間部】

「温泉を掘る」など集落での興味深いライトな取り組みに参加することをきっかけに、若者の口コミ、様々なSNS、ネットワークで間口の広い関係人口づくりが期待される。

 

③行政と農家のパイプ役【平野部】

農業生産が盛んな平野部は、農政課など行政の関与が強い。だが一般論として、行政と農家の関係は総じて良好とは言いがたい。お互いをうまく理解できていなかったりする。そこによそ者である若者が入っていくと、町役場(やる気のある若手職員)と農家(やる気のある若手農家)の間の「パイプ役」になれるのではないか。10年、20年規模の長い目で見れば、部長クラスの権限を持つようになった町役場の若手職員と、地域のリーダーとして権限を持つようになった若手農家が連携し、現在よりもスピード感を持ち、地域全体を巻き込んだ取り組みができるようになるのではないか。

 

文 : 北澤嵩人(食べタイ編集部、早稲田大学4年)

文 :森山健太(食べタイ代表、日本女子大学1年)

前編はこちらから

関係人口は人を幸せにするか〈前編〉〜「田園回帰する若者」の深層心理を読み解く〜


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