離れた"農"に人々が帰る「CSA」を目指して:平賀恒樹(農家・岩手県花巻市)

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農家 岩手県花巻市

あだ名はガッツです。僕は今まで10年間農業をやってきました。教わることは何でも受け入れ、美味しい野菜をつくるため、技術を習得するため、仕事の動きを洗練させるため、収量を上げるため、そして生活するためにやってきました。しかし、やればやるほどお客さんとの距離は遠くなるような気がしてきました。

 

ど素人から始まった僕にとっては全てが初体験でした。例えば栽培方法。キュウリを栽培するとなったら十数種類の農薬の銘柄から防除方法、タイミング、十種類以上の肥料の銘柄、使い方、タイミング等を覚え使いこなさなければなりません。

 

続いて出荷方法。A〜Dの規格、長さ、傷の有無、曲がり具合など。箱詰め方法、何本をどのように詰めるか。収穫後急いで取り掛かり箱詰め。そして9時半までに出荷。

 

それから、畑のつくり方。ウネをどのように立てるのか。マルチの張り方。支柱の立て方。ネットの張り方。収穫方法。片付け方などなど。

 

これらを当たり前に出来てようやく一人前の生産者として認められる。そう思っていましたし、実際そうだと思います。これまで経験して学んできたことは全て無駄ではありません。

 

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直接手渡しできる野菜をつくる

しかし、農薬をかけて欲しいお客さんはいるのだろうか。化学肥料にしても農薬にしても除草剤にしても対処法として効果はてき面で速いですが、その安全性には疑問が残りますし、原材料はほとんどが輸入品ですから少しコストがかかり過ぎます。日本の農業は対処法を化学に頼りお金で解決していくようなやり方ではなく、自然な方法で環境と土づくりの両方から病気や虫と向き合っていくようなことを体系化していくべきだったのではないか、なんて思ったりします。外から持って来たモノではなく自分のところで手に入るモノで、そこの環境にあったモノで野菜にとって良い環境を整えていく…というようなことが、本来自然にも人間にも優しいような気がします。

 

規格にしても、この出荷規格は誰のため?と思うことがあります。言ってしまえばすべては市場流通前提の話で、その関係者のためにやっているようなもの。このような出荷方法では、この野菜を「口にするであろう誰か」のことは想定しているのでしょうが、「目の前のあなた」のことは考えていないように思います。これではいくら真面目に規格を守って出荷し続けてもモチベーションはイマイチ上がりません。

 

とにかく、今までの農業のやり方では農家が消費者からすごく遠いところにいると思います。僕が当初から思い描いていた理想の姿。それは、直接手渡しできる野菜をつくる農家でした。たとえ少量でも友達や身近な人に直接買ってもらい「おいしかったよ!」と言われたり、収穫しに来てもらったりして純粋な驚きや喜びの表情を目にする方が、とてもやりがいを感じます。

 

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この野菜を欲しがっている
あなたのためにつくるCSA

これらの栽培方法や出荷方法の理想と現実のギャプを埋める方法が、CSA(*編集部注:Community supported agricultureの略。地域支援型の農業)だと思っています。これまでのやり方を180度変えるのには勇気がいりますが、例えば草取りイベント、虫退治イベント、病害葉っぱ取りイベントと称してみんなで手を加えたり、自家製ぼかし肥料をみんなで混ぜてつくったり、腐葉土用の落ち葉を秋に山に採りに行ったりというようなことを、イベントとしてやっていけるならワクワクしますし、良いものが出来そうな気がします。今まで無農薬栽培をやったことのない僕にも希望が持てます。もちろんそういった自然なやり方で補助的に土に手を加えていくことで、だんだんに病害虫に強く作物がよく育つ土に育っていくと思います。

 

また「無農薬で良いものがとれました」と市場に出荷しても相手にされないわけで、売り上げにもつながりにくいですが、CSAでは自分たちのため、この野菜を欲しがっているあなたのためにつくるわけですから無駄になることはありません。「価値を認めてもらえるあなたのため」につくるということで、やる気も全然違いますし、代金を前払いしていただく仕組みをつくることで経営も安定していきます。

 

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家族みんなで分かち合いたい

もう一つ、CSAをやりたい理由があります。これからは夫婦で農業をやって行きたいと考えています。そのきっかけは、一人で農業をやる限界を感じていたこともあるのですが、中古で広い敷地の家を持てたこと、我が家の拠点を構えることができたことです。

 

農業のライフスタイルは独特ですが、これを家族みんなで分かち合いたいと考えるようになりました。その中でみんなが育つというような。

 

夫婦で農業となると、これまでのやり方では単純に規模を倍にしましょうとなります。売上が倍になり経費も倍に。仕事内容が今までと同じで忙しさも同じ。なんとなくそういうやり方に妻を迎え入れる気になりませんでしたし、元々単純な規模拡大、集約化、大規模法人化等の施策には疑問を持っています。遊休農地を単純に集約し、大規模化して大型機械を投入。補助金で法人化を進めてどうぞ。とやったところで売上が上がる保証はないし、もし法人がお手上げしたら、その広い農地はどうなってしまうのでしょう。

 

せっかく広く可能性のある敷地を手に入れたのですから、そこに我が家の農業の拠点を構えたいと考えています。それは、我が家のCSAの拠点となるカフェスペースです。そこでは「食べること」を間に挟んだコミュニケーションが生まれると思います。食べることは生きていくのに必要不可欠ですから、食物は生活必需品であり、命の源です。高級なものをとか、健康によいものをとかではなく、もっとシンプルに「自分が携わった新鮮で質のよいもの」を日常に取り入れていく。命が喜ぶものをいただくことで、より深く食に対する関心をもつことにつながり、農業に関心をもつきっかけがそこで生まれるかもしれません。

 

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「My農家」としてのCSA

僕がやりたいCSAを具体的に説明すると、その名も「ガッツ式CSA=My農家」(仮)。

 

①一から野菜づくりに参画してもらう
シーズン初めに栽培方法、品目、品種等を一緒に決めてから栽培に入ります。パートナーである野菜を買う側とつくる側が一緒になり、無農薬、無化学肥料はもちろん、アレルギー対策などにも配慮した身体と自然に優しい野菜づくりを目指します。「自分が欲しい野菜」を手に入れていただける仕組みです。

 

②新鮮な野菜が手に入る
近いが一番美味しい。農家から直接買うわけですから、収穫からのタイムロスが少なく新鮮で栄養価も高いです。質の高い野菜を日常に取り入れていただくことができ、心にも身体にも子どもの成長にも良いです。

 

③ライフスタイルに農業を取り入れることができる
農業には毎日仕事があります。日々のちょっとした時間や休みの半日などに、「ちょっと汗を流そうかな」「土に触れてリフレッシュしよう」と気軽に関わっていただきたいと思います。余暇の過ごし方に新しい一コマを追加できるかもしれません。

 

④運動不足、ストレスの解消
例えば草取りも無駄な作業とは見なしません。雑草にも生えてくる意味があるからです。ですから、除草剤で皆殺しにするのではなく手作業で処理します。しゃがみっぱなしの草取りは、日ごろ運動不足の体にはもはやエクササイズ。汗がダラー、無心に没頭することでいつの間にか心もスッキリ!

 

⑤子どもの豊かな感性を育む
子どもたちと一緒に畑に入ると
「キャベツは畑でこんな風になってるんだ~」
「キュウリの花も意外と綺麗だな」
「力いっぱい引っ張ったらこんなおっきい大根が抜けた~」
「草にも可愛い花が咲くんだな」
など、子どもたちの純粋さや感性の鋭さから大人が学ぶことの多さに驚かされます。自然の中で土に触れ植物と関わることは、驚きや感動に満ちあふれています。

 

⑥カフェで毎日が収穫祭
拠点となるカフェで提供する料理には、旬の野菜をふんだんに使用し、毎日が収穫祭!を味わうことが出来ます。収穫祭イベントをはじめ、パートナー間の交流イベントを定期的に開催します。また、味噌づくりなど、自ら食べるものを自らつくる力をつけるワークショップなども開催します。

 

来年度から始動予定の僕のCSAでは、消費者が主体的に農産物に関わることが出来る関係、生産者と消費者という関係を越えパートナーという新しい関係が生まれることを目指します。

 

農業を「見える化」することで、自然相手で天候のリスクに左右されるし、手仕事が多く肉体労働で大変なんだ…と、農業の大変さをみんなにわかってもらうだけではなく、農業を通して得られる感動や喜び、または僕がいままでの経験の中から得た知恵や価値観を、参画する人々と共有していきたい。初めて畑に入って、苗を植えたり、収穫をしてその場で味わったりした時の感動を味わっていただきたいと思います。それは今までにない新しい価値観を生むきっかけになり、新しい生きかたへと繋がっていくと思います。


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農家 岩手県花巻市