息子がくれた、忘れられない10分間~私が農家をやる理由~

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この記事の書き手
農家 福島県石川町

【なつやすみに心にのこったこと きろくせいこ】
わたしは、ふくしまけんいしかわまちで、やさいののうかをしています。
やさいののうかはとってもたいへんで、あいまにかじやいくじをするのもへとへとです。

 

 

私たち家族が、10年以上住んだ群馬県昭和村から、
福島県石川町に引っ越したのは理由があります。

震災で起きたことを自分のこととして考えたかったから。
人は忘れる生き物です。
でも、忘れてはいけない。
人事ではなく自分のこととして考えたい。
そう思ったから、長男が1年生になるタイミングで引っ越しをしました。

群馬では農業法人で働いていたけど、福島で独立し自分で農家をやろうとは思っていませんでした。
就農したいけど、リタイア後でいいかな。
そう思っていましたが、
様々な縁があって、貯金も機械も作業場も倉庫も、何もないまま
農家1年生がスタートしました。

たくさんの方の支えと助けがあって、
そして、たくさんの失敗からの学びがあって
今、5年生です。
やっていくうちに、農家として目指す方向が定まり、
強い思いになり、それは、経営者としては失格と言えそうな位
不器用なやり方で目指す姿でした。
目指すのは農業経営者ではなく、
地元のための百姓でした。
お金持ちのための野菜でなく、
年金暮らしのおばあちゃんや子どもが5人いるお母さんが買う、
普通の人のための野菜、
でも、手間と時間がかかった効率の悪い育て方の野菜でした。

今シーズンは春から忙しくて、衣替えも途中、
子ども達の進級の準備もままならぬままスタートし、
忙しさは日々増幅し、比例して気力体力が残らなくなっていきました。

日が暮れても畑にいて、帰宅したらお客様にメール。
お腹が空いたと言う子ども達に、ちょっと待って、ご飯の残りチンしていいよ、
みんなで分けてよ、一人で食べないで、
携帯のメールのお客様には夜中とか朝にメールできないでしょ、今しかないの‼
ゴメンという思いと我慢してよ、の思い。
それが終わると、部屋を片付けなさいと怒りながら簡素な食事を作る。
そんな日々が続きました。

夏休みになってますます気持ちがギュウギュウになりました。
ここ何日も炭水化物しか子どもに食べさせてない。
洗濯物は山積み。
子どものプリントが散らかってる。
こんなに休む間もなく動いているのに
仕事は終わらない…
あれ、先月の売り上げってこれだけ?
私、何のために農家してるんだろ。
誰のために?
子どもお腹空いているのに…?

夫と弟たちが寝てしまい、夜更かししていた長男が床につくとき言いました。
「ねぇ、一平。お母さんさ、もう農家無理だと思う。
こんなに忙しくて、お家もぐちゃぐちゃで、ご飯もちゃんと作れなくて。
だからって儲かってるわけじゃないの分かるよね。
もう無理だよね。限界だよ。
やめてどこかで働いた方がいいよ。そう思わない?」

すると一平は、悩むこともなく、スッと答えました。
ゆっくりと、静かに。
とても優しく。
でも、決して諭すようにではなく。

「あのさ、人は食べ物を食べて生きてるんでしょ。命を食べるんでしょ。
農家ってその命を作る仕事でしょ。誰かがやらなきゃいけないんだよね…
お母さんがやめちゃったら、誰がその仕事するの?
それに僕、畑で遊ぶの結構好きだから…やめちゃったら畑返しちゃうよね…」

涙が次から次へと出て、止まらなくなりました。
一平には、ただ、「ありがとう」としか言えませんでした。

一平にとったら、この時のことは1年の365分の1のうちの
ほんの10分の出来事で、きっともう覚えていないでしょう。

でも、私にとったら、これからも忘れることのできない10分です。

農家をしている「誰のために、何のために」に対する答えに
一平が半分だけ”〇”をくれたような気がしました。

私はこの先も辛い時、この時の空気と一平の言葉を思い出して
踏ん張るのだと思います。

誰かがやらなきゃいけない、人間の命を支える仕事…
大変とか儲からないとかを越え、
ただシンプルに、やらなきゃいけないんだと思います。

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泣いたり怒ったりしながら宿題を終え、3人の小学生は新学期が始まりました。

2学期も頑張ろうね。
弱くてすぐ泣くお母さんだけど、強くなれるように頑張るからね。

(2017.8.28)


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