「儲け」を重視しないビジネス~パラグアイで見つけた農業のあり方~

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この記事の書き手

上野真司(うえのしんじ)さん

大学で農業を学び卒業、23歳で青年海外協力隊としてパラグアイへ。3年間活動したのち東京へ戻り会社勤めを半年経験。その後、長野県飯田市へ移住。在住13年目のフルーツとうもろこしと市田柿の農家。

 

 上野真司さんは、大学を卒業したあと、青年海外協力隊に参加し、パラグアイに赴任しました。そこで農業指導にあたったことが農業を見直すきっかけとなったそうです。

◆パラグアイの農家が教えてくれたこと

―パラグアイで「農家が持つ豊かさに気付いた」そうですが、どういうことですか?

農業って「お金を稼ぐもの」って思っていたんです。ところが、パラグアイの農家って、そうじゃないんです。自給自足が基本の暮らしで、家の周りで豚や鶏を飼い、食べきれないほどの芋や果物があったりしていて、家族みんなで働いている。すごく幸せそうなんですよね。そんな風景を見ていたら、農業ってお金を稼ぐだけじゃなくて、自分たちの暮らしを作れるんだなあ、と。そういうの、とても豊かじゃないですか。今、私も50~60種ほどの野菜や果物、キノコなどを育てて、家の自給率を上げています。

 

―生産して売る、という“産業”にとどまらないのですね。

指導員の役割は、野菜を作ってそれを売るように誘導することでした。パラグアイでは、玉ねぎを隣の国から輸入して食べているんですよ。だから、ぼくがその村で作ったらみんな喜んで(笑)。「じゃあ、街に売りに行こう!」っていっても、みんな売りにいかないの(笑)。

 

―なんでですかね?

めんどくさいからなのかなあ(笑)。一軒だけ売り始めた農家がいて、その方は賢かった。子どもたちを集めて、自転車に玉ねぎを積んで売りに行かせんですよ。結構稼いでいました。畑も10aくらい作付けてたのかな。でも、急に売るのをやめちゃった。どうするのか見てたら、お風呂場を作りだして。「たまねぎはもういいのか」って聞いたら、「お風呂つくるお金を稼いだからもういい」って。(笑)

必要なもののために働くっていう考え方なんですよね。だから私たち日本人と価値観が違って。必要なものを、欲しいものを買うために働く。「貯蓄のため」といったお金は稼ごうとはしないんです。

いろんな人がいるけど大体の人は頑張ってまでお金がほしくない。こういう考えも「心豊かだな」と思いましたね。

 

◆「儲ける」よりも「感動」を

(写真:上野さんのフルーツとうもろこし)

―「人に喜んでもらえる農産物を作りたい」、というのが初心だそうですね。

はい。おいしいものを作って驚かしたいというか。飯田市で作る作物、すごくおいしいんですよ。東京で食べてたのとは、まったく違う。だからおいしいものをこの地で育てて、みんなをびっくりさせたいんです。

 

―人を驚かせる作物として選んだのがフルーツとうもろこしなのですね。

そうですね。畑を借りるとき、その前の年まで1年だけフルーツとうもろこしを作っていたそうなんですよ。けど1年で辞めちゃうってことだったんで、畑もフルーツとうもろこしもそのまま引き継げばいいじゃんってなって始めた、というのもあるのですが。

もともと、とうもろこしは鮮度が落ちやすい作物なんですよ。1日1度ずつ糖度が下がっていくんです。東京のスーパーで買うと大体収穫して3日4日…下手すると1週間とか経っちゃうんで。ぼくがやりたかったのは、作った農産物を美味しいまま宅配便で都会のお客さんに直接売るということだったので、鮮度が命の作物を作りたかったんです。そんでとうもろこしは本当に鮮度が命なんで早いほどおいしいので、収穫して翌日にお客さんに食べてもらえば、お客さんに感動してもらえるだろう、というのをもともと狙っていたのと、さらに生で食べられるとうもろこしがあるんだ!ということも知り、それも売りにもなるってことでこのフルーツとうもろこしに決めました。

 

◆「感動」がつながるコミュニティ

―お客さんは、どうやって集めたんですか?

初めは本当に知り合いだけでした。自分と妻の知り合いに案内状を送り、それで買ってくれた人がおいしいかったってリピーターになってくれて、だんだん口コミで増えていきましたね。顧客は、中高年の方が多いですね。電話で、「今HP見てるんだけど12本入りのちょうだい」といった注文がきます(笑)。

近所の人から2,3本もらって美味しかったからと言って注文してくれるお客さんもいます。今のお客さんは、誰かのお知り合いなんですよ。枝分かれして、どこかでつながっている人たちです。

なかには親切なおばちゃんがいて、わざわざ宣伝してくれるんですよ。「こんないいのあるから買ってあげて」って。元々知り合いだから、そういう応援してくれる人が多いっていうのは心強いですよ。ありがたいことです。

 

―上野さんは、就農希望者(長野県の里親制度)の受け入れにも積極的ですね。

農業は奥が深くて難しい仕事なので、作業の意味を理解してもらうことが大切だと思っています。

たとえば、除草ひとつするにしても、草取りをする理由があります。草取りするタイミングもあるし、除草をやらないという選択肢もあります。それを知っているのと、知らないのでは、作業の効率が劇的に変わってきます。

農業は、時と場合でするべきことが変わっていくので、自分で考えそれに対応できるように、説明するよう心がけています。

 

―ただの作業ではないぞ、と。

そうです。作業員になってもらっては困るんです(笑)。自分で考える農家になってほしいんです。ぼくらだけじゃ、農家続けられないんですよ。たとえば、水路の周りをみんなで草刈りするんだけど、みんながいなくなっちゃってぼく一人になっちゃったら、地域を維持することは無理なんです。仲間を増やして住む人を増やさないと、どんなに自分だけ成功しても自滅するなって(笑)。

あと農業って楽しいんで、会社や組織に縛られず農業で暮らせて幸せですよ。家族が一緒にいられますし。

農業って、なんでも自分に返ってくるんですよ。会社に勤めていれば、普通に仕事していればお金はいってくるじゃないですか。でも農家は自分の手で稼いでいくしかない。学んだ技術とか捕まえたお客さんが自分の財産になる。そういう意味では、自分で勉強したりお客さん開拓するほど自分の経営がよくなっていく。

やることすべてが自分に返ってくる、そんな仕事ですから、いい緊張感と充実感がありますよ。

 

―就農希望者を受け入れ始めたのも、仲間が欲しいからなんですね。

そうですね。これまでに、(食べタイに登場した)千葉一哉さんを含め、これまでに、3組の研修生が近くに移住してくれて、3軒とも子どもを生みました。そうやって子どもの同級生とかできていったら素敵じゃないですか。

文:田丸さくら(食べタイ編集部、専修大2年)


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