八方美人で何が悪い!〜全員が幸せになれる農業システムへの挑戦〜

in 「論」をよむ/東北/福島/農家漁師の「論説」
この記事の書き手
農家 福島県耶麻郡西会津町

父の口癖をカタチにする

「農業はこれから面白くなる。」

幼い頃から聞いていた、私の父の口癖です。

私は福島県西会津の専業農家の家に生まれましたが、その頃は既に農業は衰退産業でした。それでも農業に誇りをもっていた両親がいて、「この町を生かそうと思ったら農業しかない」とキラキラと語る父親をみて育ちました。その姿は私の目にはカッコよく輝いて見えて、小学生のころには「将来は農家になる」と決めていました。

しかし、年齢が上がるにつれ、世間の農家に対するイメージが良くないことに気づきました。周りの子たちの農業のイメージといえば、「きつい、汚い、カッコ悪い、儲からない」でした。「農家になりたい」と思う自分を恥じて、隠していた時期さえあります。

それでも、農家になる夢は自分の中で薄れることはありませんでした。その転機になったのは、高校卒業後に進んだ福島県の農業短期大学校で出会った農業を志す仲間たち。「農業をやりたい」とごく普通に話すことができる環境は、私にとっては貴重でした。仲間と農業のことを語り合い、初めて自分の気持ちを開示することができたように思います。

農家デビューの翌日に、地震。

2011年3月9日、農業短期大学校の卒業式。

2011年3月10日、実家に戻り、念願の農家デビュー。

2011年3月11日に、東日本大震災。

もし震災がなかったら、今とは違う農業人生だったと思います。「おいしい野菜をつくるぞ」と野菜とだけ向き合う職人気質な農家になっていたかもしれません。震災があって、私の農業人生は180度変わりました。

震災の瞬間は、ビニールハウスで父と一緒にブロッコリーの種まきをしていました。ビニールハウスが 波打つように揺れたのを今でも鮮明に覚えています。

幸いにも、私の住む西会津町は震源地から100㎞以上も離れている新潟の県境に位置しており、直接的な被害はありませんでした。しかしその後の福島原発の事故によっ て世に放たれた「放射能」という一つの単語は、私たち福島に暮らす農家に深刻なダメー ジを与えました。

契約でスーパーに卸す予定だったブロッコリーは、放射能検査をしているうちに収穫適期を逃し、ほとんどを捨てました。そんな野菜の姿を見るのは、むなしくて、やるせない。収穫の喜びを感じることができないまま始まった農家デビュー1年目は、毎日、これから生活していけるのか、農業を続けていけるのか、不安と恐怖でいっぱいでした。

 

今すごく幸せです

農作業の傍ら、福島県や町のPRイベントや風評被害払拭イベントなどで、農産物を販売 する機会に積極的に参加しました。

「西会津のお野菜おいしいですよ」という呼び言葉に「なになに?」と寄ってきたお客さんがいても、西会津が福島と知った途端に「食べたくないわ」「なんで福島が来ているのかしら…」と厳しい意見をもらうこともありました。

それでも、私はそのお客様を責める気は一切ありません。逆の立場であれば、私も同じことを考えていたでしょうから…。

 

しかし、それと同時に「福島のこと応援しているよ」「福島のものって美味しいのよね」と、購入してくださった方もたくさんいたのです。

応援してくださる方は、農産物だけじゃなくて私たち農家という「人」を見てくださった方だと思います。おいしい野菜は、全国どこにでもあります。でも直接コミュニケーションをとる中で、私たちの「必死さ」だったり「人間性」をまっすぐ見てくれた方が、私たちの活動を理解して、応援してくれました。

そして今では、「あなたの野菜楽しみにしていたよ♪」「会いに来たよ♪」と言って、イベント会場から遠く離れたところからでも、わざわざ私に会いに来てくれるお客様がいます。それがすごく幸せで、嬉しくてたまりません。

ただ農作業をやっていただけでは、知ることはなかったお客様の生の声。そのエールがあったから、続けてこれたのだと思います。この時の経験が、今の私の原点になりました。

だからこそ、この感動をぜひ他の生産者の方にも味わってもらいたいと思っています。

 

八方美人で何が悪い!
〜全員が幸せになれる農業システム〜

少し前までは、ただ農産物の生産をしているだけで良かったのかもしれません。しかし、大量生産、大量消費の渦の中での農業のあり方に、私は限界を感じています。

これからの時代は、消費者が生産者を知っているだけでなく、私たち生産者自身も自分の野菜を選んでくれている方を知ることが、大切なことだと思うのです。

お客様はこの野菜をどう思うか。お客様は何に興味があるか。お客様は何に価値を感じるのか。そのことを感じ取る、または理解しようとすることがこれからの生産者に必要な意識ではないでしょうか。

今までは生産を一生懸命されてきて、消費者との交流がほとんどなかった生産者にも、お客様の喜びの声や感謝の声に触れてほしい。そんな機会を作りたいと思い、今回はプロジェクトを立ち上げることにしました。

 

その名も「八方美人で何が悪い!全員が幸せになれる農業システムを創ります!」というタイトルです。関わる人全てが幸せになれるような農業を始めたいと思っています。

 

八方美人プロジェクトの3つの柱

CSA って知っていますか?
CSAとは、Community Supported Agrecultureの頭文字をとったものです。シンプルにいうと、生産者が目指す農業に賛同する消費者の協力によって成立する農業 の仕組みです。天候など不作といったリスクを、消費者も一緒になって共有することで、食に対しての有り難みや大切さを知る機会にもなります。

 

このCSAを軸に、具体的には以下の3つの事業を始めます。

1:野菜の定期便を送ります。そこには私の野菜だけでなく、西会津の頑張っている農家さんの商品も一緒に入れます。私を通して、地域全体の農業を知ってもらえるような仕組みにします。

2:農業体験ツアーを実施します。体験をすることで、私とお客様の相互理解と、お客様同士の絆が深まり、より良いコミュニティへと成長していけると信じています。

3:インターネットを活用した、ウェブ上での野菜の販売ができるシステムを作ります。いわゆる中間マージンがなく、お客様のもとへも最短でお届けをすることができる「インターネット通販」のシステムを作ります。お客様とのwin-winの関係を大事にしていくために、この販売方法に力を入れていきたいと思っています。

 

 

私は、この事業を通して私だけが幸せになれればいいなんて思ってはいません。とにかく農業に関わる人全てが幸せになって欲しいと願っています。なので、この事業も私だけでなくみんなで創っていきたいと思っています。

 

結局、人が好きなんです

どうして「西会津」のためにそこまでするのか。どうして「みんな」にこだわるのか。

そう聞かれたら「やっぱり西会津の人が好きだから」なんだと思います。西会津の人の明るさ、やさしさ、気づかい。思い起こすだけですごく気持ちがやわらぎます。何が魅力かって聞かれるとうまく言葉にできませんが、どこにいてもほっとけない存在。それが私にとっての西会津です。

自分だけがよければいい、そんな意識が蔓延していた社会がもたらした結果の一つが原発事故だと思います。ひとりの幸せは一時的なもの。でもみんなで共有できる幸せはずっと続くし、それがわたしにとっての幸せでもあります。

今このプロジェクトを実現するために、クラウドファンディングに挑戦中です。それも残り4日です。

【八方美人で何が悪い!全員が幸せになれる農業システムを創ります!!】

クラウドファンディングページはこちら
https://camp-fire.jp/projects/view/29463(6月26日現在 協力者130名, 達成率90%)

P.S. 農家のみなさんへ

最後に…。クラウドファンディングを通して、おなじ農家の方からもエールをいただいています。

「勇気をもらいました」や「自分も、もっと頑張らなきゃ」というメッセージもいただきました。

実は、このプロジェクトの裏にはもうひとつの想いがありました。
それは自分が挑戦している姿を見せることで、「同じ農家の皆さんへのエール」にもなればいいな思っています。

「いろんなことに挑戦してもいいんだ」

というメッセージを同じ農家の方々にも届けたいと思っています。

そしてHAPPYの連鎖が農業界でつながって、農業が魅力ある仕事としてきちんと確立されて、子ども達のなりたい職業第1位に「農家さん」が来る日を目指します。

(2017. 6. 26)


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農家 福島県耶麻郡西会津町