裏タケノコ王シリーズ 第2回「ファイトマネー」

in 編集部から/農家漁師にインタビュー/静岡
この記事の書き手
農家 静岡県富士宮市芝川

「本当のぼくは、テレビとは違うさ」

たけのこの山仕事を手伝いながら、真実のタケノコ王に迫るシリーズ。
現地取材18回、タケノコ王の右腕早大生が、ぶっ倒れない程度に更新します。

裏タケノコ王シリーズ

第二回 ファイトマネー

「金のかせぎ方は変わってねぇら。むかしっから“ファイトマネー”って呼んでるさ」

◆ 輝きのマネー

風岡:今日は、たけのこの山をふかふかにする堆肥をいれていこう。

風岡:たけのこは、土質と肥料でガラリと変わる、とんでもない食べ物さ。

風岡:うちの竹林、青々してるら?去年が豊作だったから、普通は竹が疲れちゃって黄色くなるさ。年間5回やってる肥料と、堆肥の効果はあなどれないよね。さあ、はじめよう!

森山:この急斜面はじわじわ脚にきますね・・

 

風岡:人力で山に10kgの土運んでるわけだからね。今日は80袋、合計800kgを運ぶよ。

 

森山:覚悟はしてました(笑)

森山:こんな日常風景も、ふだんの派手なイメージからは想像つきませんね。

 

風岡:すごく孤独さ。今日はこうして笑いあえるけど、いつもはひとりでやってるからね。流れ落ちる汗のしずくを数えながら働くこともある。15年間、それを続けてきただよね。でもね、こんな日常には、単なる山仕事以上の効果があると思ってる。

風岡: ちょっと、ボクシングの試合を想像してみよう。飛び散る汗、息詰まる攻防、釘付けになる観客の視線、輝くリング。選手にとっておそろしく魔力のある空間さ。

リングで光を浴びる裏には、「影」がある。それは、日々の膨大な練習のことだよね。今日の堆肥の作業だってそうさね。

風岡:で、試合に勝つと「ファイトマネー」がもらえるさ。

 

森山:ファイトマネーには、サラリー(給料)以上の価値があるんですか?

 

風岡:鋭いね。生きてるっていう実感が何よりの価値さや。

ボクシングも、たけのこも、1年サイクル。光を浴びては、影、影、影、また光、ってぐるぐる循環するよね。ぼくは常に自分に飢えてるさ。どんどん高みを目指すから、光と影の循環も巨大になっていく。その間、モチベーションが衰えることはない。死ぬまでそうだと思う。

光だけ大きくしようったってダメだよ。ギャンブルで転がり込んできた金でフェラーリを買うとするよね。ブツが手に入るという結果は同じかもしれない。だけど、誇りをもって堂々とは乗れないっしょ?お金をかせぐことは、目的じゃない。1から10まで自分で汗を流すことが大切なんだ。そのなかに輝きがある。だから、いまはかせぎってよりか、輝きの問題なんだよね。


(この日ラストひとつの堆肥。他人にはやらせず、自分で撒きにいく)

 

◆ 農家が輝く舞台はあるか?

あくる朝・・

風岡:なんだかフロントガラスが汚れているら?

 

森山:そうですかね・・おぉぉっ!

 

(バシャッ!!!)

 

風岡:綺麗になったら?

森山:豪快だ・・、左のタイヤを水たまりに突っ込んで洗車するなんて(笑)

 

風岡:お、あれみてみ!

 

森山:はい!

風岡:やっぱり、管理していない竹林はまっきっきだら?

 

森山:本当だ・・

 

風岡:高齢化が進んで、手入れできない人がほとんどなのさ。だからといって、この街でたけのこを始めようとする若者もいない。

 

森山:なぜ誰もやらないんですか?

 

風岡:この街のたけのこ農家のかせぎっていくらだと思う?ワンシーズン、平均70万くらいさ。とても専業じゃ食っていけないよね。

 

森山:たけのこ農家という職業は、本当に厳しいですね。

 

風岡:ぼくが選んだのは、生き方としてのたけのこ農家さ。お金だけで言ったら、サラリーマンをしたほうが効率はいい。でも、ぼくはここで輝くよ。

 

森山:思えば、たけのこ農家に限らず、農家が輝ける舞台は少ないですね。従来の農業の枠組みでは、農協にまとめて出荷、ハイおしまい、が多かった。個人が輝くというというよりは、全員で支えていくという形でした。

 

風岡:ボーナスはない、怪我もある、リスクがとにかくでかい。そんな農業で輝くためにどうするか。たけのこという無人の荒野を選び、人が真似できないハードなことをやった。人が嫌がることをしているうちに見つけたんだ…輝ける「リング」をね。

 

◆ 120歳までたけのこを掘る

森山:たけのこ農家としての輝きと、プロアスリートの輝きはちがいますか?

 

風岡:ちがうね。自分自身を振り返ってみても、アスリート時代は自己満足的な要素が強かっただよね。でもいまは、日本一を目指すたけのこの味を期待してくれるお客さんがいる。人の役に立っている実感があるさ。

 

森山:たけのこの味で日本一、というのはどうやって証明するんですか?

 

風岡:証明する必要なんてないさや。「俺が本当のタケノコ王だ」なんて奴が出てきたら、テレビ的には面白いかもしれないよ。でも、どっちかが1位になれば、どっちかが傷つくよね。自分の味を愛してくれるお客さんがいればいいんだよ。日本一を判断するのは、テレビじゃなくてお客さんさ。

森山:お客さんに喜ばれる「オンリーワン」になれば勝たなくたっていい。農業は、そんなところがスポーツとはちがうんですね。

(画像:武井壮Twitterより)

風岡:トライアスロンを続けていても、今の年齢では監督やコーチが精一杯だったと思う。そう考えると、農家になって本当によかったよね。農業のいいところは「引退」がないところさ。みんながリタイア、活躍できなくなったときに、活躍している自分を世間に見せびらかすことができるんだ。俺はジジイになっても働くぞ、農家としてやっているぞと。

 

森山:それはアスリートにはできないことですね!

 

風岡:仮に、誰かが70歳で力尽きたとする。ぼくは90歳までいって、20年間分、余分に人生を楽しめたとする。どんな偉大な功績を残した方でも、死んでしまったら羨ましいとは思わないよね。生きてるっていうことはそれだけ素晴らしいことさ!健康で活躍できてる自分っていうのを、もっともっと楽しみたいし、味わい続けたいよね。

人生のゴールなんてないよ。みんなが引退した後も選手として長く活躍したい。ファイトマネーをかせぎながら輝きたい。ぼくは生涯現役。120歳までたけのこを掘るつもりだよ。

(つづく)

【裏タケノコ王シリーズ】
第一回 「プロアスリート農家

裏タケノコ王シリーズ 第1回「プロアスリート農家」


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