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進化する漁協が上げる『食べる通信』という狼煙:佐々木伸一(漁協職員・岩手県大船渡市)

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漁師 岩手県大船渡市

2015年9月、私が編集長を務める『綾里漁協食べる通信』が創刊されます。綾里は、料理と同じく“りょうり”と発音します。

綾里は、岩手県沿岸を縦断するリアス式海岸の南部に位置しており、大船渡市の三陸町内にある人口約2,600人の小さな地域です。その人口の約6割以上が漁業者とその家族であり、典型的な漁村と言ってよいと思います。その綾里にあって、漁業の管理・運営を主に行っているのが、我が綾里漁協(綾里漁業協同組合)です。

その小さな漁村の小さな漁協が、なぜ『食べる通信』(*1)創刊に至ったのか…ということについて少し書いてみたいと思います。

 

漁業界の課題

全国各地の漁村・農村の抱える課題は、言うまでもなく人口減少と後継者不足に他なりません。少子化や人口減少については、一次産業に携わる者だけではどうにもならないような、国家レベルの課題になっています。我々漁業関係者にとって、特に深刻な問題は「担い手がいない」という現状です。

では、なぜ後継者が育たないのか。担い手が増えないのか。答えはそんなに難しい話ではありません。それは、漁業が“魅力”に乏しいからです。そこには収入であったり、心の張り合いであったり、仕事の内容であったりといろいろな解釈があると思いますが、それらをすべてひっくるめて“魅力”が欠落しています。

いや、正しくは「魅力がないと思われている」と言うべきかもしれません。漁業には魅力がないわけではないのです。その魅力を知らしめる術が乏しいだけです。私は、漁業の閉鎖的な環境が生み出す情報発信力の欠如が、漁業界の最も大きな課題だと考えています。

 

綾里の課題

綾里の漁業も例外なく、担い手不足の課題を抱えています。前述したとおり、綾里は漁業従事者と関係者が大船渡市内のほかの地域よりも多いため、この問題が綾里という地域の存続に関わる…とまでは言い過ぎかもしれませんが、こと経済に及ぼす影響は深刻です。現在、活躍している漁業者は50代、60代が中心であることから、あと20年後、いや10年後には、漁業収入が激減することが予想されます。

漁家の漁業収入が仮に減っても会社勤務などと兼業して家族を養えばよい、という考え方もあるでしょうし、それは決して間違ってはいないと思います。しかし、産業がその地から消えることは、地域の人口流出と減少を加速させ、それにより伝統や古き良き文化の継承が危ぶまれ、そして子供が育たなくなる…という負のスパイラルに陥る気がしてなりません。

出稼ぎが主流であった昭和20年代、地域を愛する先代の綾里住民たちは、何とかこの綾里で生業ができないものかと試行錯誤しました。そうして始まったのが、目の前の海を最大限に活用した「漁業」です。綾里という地域の礎となったその「漁業」が今、少しずつ姿を消しそうになっています。これをなんとかしたい。

 

課題解決のために

前述したように後継者不足という課題を抱えているにも関わらず、漁業界には、その危機を次世代に先送りして現在を全うできればよいというような、閉鎖的かつ独占的な雰囲気があるように感じます。しかし、それは漁業という職種が持つ性分みたいなものでもあります。漁師にとって「他人に勝りたい」という意地は、労働そのもののモチベーションに関わるものでもあるため、ある程度は仕方のないことだと思います。惜しみない労働力と費用と時間を使って知り得た情報や秘策を、公言などするはずがないのです。その厳かさは、そのまま「無口で寡黙」という一般的な漁師のイメージにもつながるものだと私は思っています。

しかし、その閉鎖的かつ独占的な部分だけが未だに色濃く残り、漁師の出荷した漁獲物のその先がわからないということ、消費者に届くまでの情報が少ないということが、漁業のイメージを下げるばかりではなく、漁業の“魅力”を「自ら閉ざしている」ように思えてなりません。

そこで我々が取り組んだことが、2003(平成15)年から開始した『恋し浜ホタテ』の消費者への直送(*2)です(実は当時、地域が抱える課題の解決のために取り組んだというよりは、若い漁師がやりたいという意思に反対する理由が見当たらなかっただけなのですが)。

『恋し浜ホタテ』の取り組みは、予想を超える逆風に何度も阻まれましたが、それでも前進を止めることがなかった理由は、その逆風以上の追い風が常に漁師たちの背中を後押ししてくれたからです。例えばホタテを買うこと、口コミで評判を広げること、新たな購入希望者につなげること、そして「美味しい」と生産者に伝えること…いろんなかたちの「消費者からの応援」が広がりました。これにより、若いホタテ生産者たちの意識は明らかに変わりました。「消費者を思いやる」という今までにない感情が芽生えたのです。この純粋な彼らの行動と思いは、やがて現代における枯渇無縁な資源である「情報」に乗って消費者に伝わり、それがまた追い風となってますます強く優しく彼らに還ってきました。彼らが漁業の“魅力”を体感した瞬間でした。

その彼らを間近で見ていた私が思ったのは、漁業の未来には、見える消費者の力が必要不可欠だということでした。水産業界の抱える課題の解決策を、いわば生産者と消費者から学んだのです。

 

生産者と漁協の関係

漁協は、そこに属する組合員(生産者)によって成り立ちます。裏を返せば、漁協に所属しなければ、その地において漁業を営むことができないということでもあります。

そして、我々漁協職員は、生産者が精度よく生産することができるように補佐することを主な業務としています。その漁協の経営は、主に生産者が水揚げした水産物によって成り立つという関係にあります。私は、生産者と漁協の双方が得意分野をそれぞれ遂行することで、互いの健全な経営が実現できると考えています。そういう意味では、興行とよく似ているかもしれません。舞台役者と裏方の関係がそうであるように、表に立つ役者にまぶしいほどの脚光があたらなければ、裏方の影は薄く、誰からも見えないものになってしまいます。生産者が役者ならば、我々は影としての存在感を発揮し、生産者への光を導くことが使命だと思っています。そんな密接で良好な関係こそが生産者と漁協の本来のかたちだと私は確信しています。

 

なぜ『食べる通信』なのか

我が綾里漁協には、約450名の生産者が属しています。その大多数が、SNS(ソーシャルネットワークサービス)などに馴染みがなく、情報発信に長けているとはいえませんが、綾里の漁業をその大多数が支えていることは紛れもない事実です。この状況を、私は漁協の職員として見て見ぬふりをすることはできません。漁協や私自身がいわばSNSとなって、できるだけ多くの生産者に消費者とのつながりを持たせたい。生産者と食べる人のつながりに一次産業の課題解決の可能性があるのであれば、全力で取り組んでみたいのです。そのつながりをつくり出し、恋し浜ホタテを発信した若い漁業者たちが感じてきた漁業の魅力、自身の誇りをこの地域のあらゆる漁業者に体感してもらう道として、我々は情報誌『綾里漁協食べる通信』の刊行を決意しました。

私は、漁業に限らず一次産業の現場こそが食の最高の舞台だと思っています。だから、生産者という役者を「今ある舞台」に上げるのではなく、裏方としてその現場に「新たな舞台」を作りたいと思います。そして、この小さな漁村から、どこからでも誰にでもはっきりと見える狼煙を上げて、全国各地の漁業に関わる仲間たちを奮い立たせようと思います。

新たな海を切り開く仲間づくり。浜に人を育て、海の恵みを守る。それが綾里漁協の目指す『食べる通信』です。

—–

<編集部注>
*1 『食べる通信』は、2013年7月の『東北食べる通信』(NPO法人東北開墾)創刊を皮切りに、全国各地から刊行されている食べもの付き情報誌のこと。

*2 岩手県産の養殖帆立は、通常は県の漁業協同組合連合会の共販制度というシステムの中で価格が決定され、流通していくが、2003(平成15)年、綾里漁協は、このシステムに反することなく消費者に直接販売する画期的な方法を編み出した。綾里小石浜の漁師たちが育てた上質の帆立には「恋し浜ホタテ」の名がつけられ、現在も浜から消費者の元へ直送されて好評を博している。

『綾里漁協食べる通信』ウェブサイト
http://taberu.me/ryouri/


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漁師 岩手県大船渡市