ハートフルで最強の猫の手部隊!「柿木さんちのCSA」で起きたSの奇跡

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平成28年 台風被害により被災された皆さまへ

心よりお見舞い申し上げます。

朝夕の冷え込みが一層厳しくなってきた11月。今年も残すところあとわずかになってきました。2016年、日本列島は各地で天災に見舞われました。今夏東北・北海道地方に大きな被害をもたらした台風10号。メディアに取り上げられることも幾分少なくなり、少し昔の記憶になっている方も多いのではないでしょうか。

今回は、岩手県久慈市でこの台風10号の被害に遭われた 短角牛生産者 柿木敏由貴さんと「短角牛大好き倶楽部(NPO法人東北開墾柿木さんちのCSA)」の会員の皆さん、いわば彼の人柄と生産物の虜になったみなさんの、台風上陸直後から今日に至るまでの活動を紹介します。


■東北上陸した台風10号の甚大な被害

8月30日に東北地方に上陸した台風10号は、その後温帯低気圧に変わったあとも、東北・北海道地方に記録的な大雨をもたらしました。岩手県では、盛岡市、宮古市、久慈市、遠野市、釜石市など12の市町村に、災害救助法が適用されると発表。柿木さんの牛舎周辺も甚大な被害を受けました。

2016.8.30−31 <柿木敏由貴さんの投稿>

牛さんは死んでなさそうだけど、とんでもない被害だ
明日から大変だこりゃ(*_*)
じょじょに水は引けてきました。

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当初「短角牛大好き倶楽部」では、毎年恒例の牧場ツアーを9月初旬に予定していました。毎年、全国各地から短角牛と柿木さんのファンたちが集うこの企画。生産現場に足を運ぶ機会を心待ちにしていた会員さんも多かったようです。

 

■柿木さんからのSOS

「短角牛大好き倶楽部(NPO法人東北開墾柿木さんちのCSA)」のコミュニティマネージャーをされている福田亜由美さんをはじめ、CSA会員のみなさんの多くがツアーの開催は中止だと諦めていたそうです。しかし、柿木さんからのFacebookの投稿(※下記参照)により急遽「台風被害復旧のボランティア」活動に変更することとなりました。

 

2016.8.31 <柿木敏由貴さんのFacebook投稿>

報道もされている様ですが、大変な被害です。まだ把握出来ておりませんが、人、牛はとりあえず無事です。地域は道路が崩落や倒木により孤立しております。随時、お知らせ致しますが、9/3・4のツアーは、内容変更でボランティア作業にして頂けると助かります。 

 

2016.8.31 <コミュニティマネージャー 福田亜由美さんのFacebookグループページへの投稿>
ボランティアを募集します。

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<福田亜由美さんの振り返り(「短角牛大好き倶楽部」コミュニティ通信より)

当初、柿木さんから被害の報告を受けた時、「ツアーは中止だな…」と、私は半分諦めていました。すると、柿木さんからツアーに参加するメンバー全員にメッセージがありました。
「ツアーの内容を、ボランティア作業にしてください。助けてください」

柿木さんが私たちにSOSを出したのです。
不謹慎かもしれませんが、私は正直嬉しかった。そして、他のメンバーもきっと嬉しかったはずです。ふだん弱音を吐かない、泣き言を言わない岩手きっての「孤高の生産者」が私たちにサポートを求めてきたからです。それは柿木さんが私たちを「信頼」しているからこそ、素直にできることだと私は感じました。

 

■集う!柿木さんの大応援団

9月3日からのツアーは、内容を台風被害復旧作業へと変更して予定通り開催されました。開催に向けて、Facebookのグループページを活用しメンバー同士で情報交換がなされたようです。ツアー終了後には、参加者の多くが活動の様子を振り返られていました。

2016.9.6 <「短角牛大好き倶楽部」会員 貝田尚重さんの投稿>

ツアーを予定したメンバー、誰一人としてキャンセルしませんでした。
ツアー当日には、10県もの地域から「柿木さんをサポートしたい!」と総勢20名のメンバーが牛舎に集結したのです。CSA会員以外には、「そうま食べる通信」編集長の小幡広宣さんや、「同じ生産者として私も手伝いたい!」と秋田の「いぶり美人」を生産している西宮三春さんも駆けつけてくれました。

ツアー決行が決まると「復旧作業には最低こういう装備が必要」「居住地の社協で少額でボランティア保険に加入できるよ」「山形村周辺の通行止め箇所はここ。最新の道路状況はこちらで確認」分担したわけでもないのに、それぞれの判断で必要な情報を集め、みんなに共有する輪があっという間にできました。

レンタカー数台に分かれて現地入りした後は、男子チームは決壊した川べりで土砂や倒木などにまみれて埋まってしまった設備や資材の回収。女子チームは浸水によって土砂まみれになったプラケースやロープの泥を落とし、再度使えるようにきれいに洗いました。
女性陣は特にボランティア経験が少ないメンバーが多かったのですが、
「タオルよりブラシやタワシの方が泥が落ちやすいよ」
「水道水より、側溝の水で洗い流した方が効率いいかも」
と、それぞれの知恵を持ち寄り、一気に、楽しく(!)作業している様子が、印象的でした。

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2016.9.4 <柿木敏由貴さんの投稿>

今週末は、たくさんの方々がボランティアに駆けつけて下さいました!こんな時の人手は、作業的にも気持ち的にも助けられますm(__)m

ロールやら、資材やら、色々流出してしまいましたが、これほどの財産があるでしょうか!!本当に感謝です!頑張ります!ありがとうございます!!

■柿木さんちのCSAの「S」に新しい意味が加わった時

2016.9.6 <「短角牛大好き倶楽部」会員 貝田尚重さんの投稿>

CSAはCommunity Supported Agricultureの頭文字で、安心安全の食物を手に入れるために、地域社会で農家を支える米国の有機農業支援活動。日本でも消費者が一次生産者を支える仕組みを広げようと、「東北食べる通信」高橋博之編集長の提唱で3年ほど前に結成されました。「柿木さんちのCSA」もその1つです。

「柿木さんちのCSA」の会員は約80人。全員で力を合わせても、600キロもある牛となると、たった1頭ですら買い取ることもできず、経済的には全く非力。会員の多くは関東在住で、気軽に現地訪問をできるわけでもない。そんな私たちが、日本一の短角牛生産者である柿木さんを「支える」とか「応援する」とか言うのはおこがましい。だから、私たちの「CSA」の「S」は「Support」というよりも、「市場で高値が付く黒毛和牛ではなく、あえて短角牛を育てることを選んだ(Select)」生産者と、「サシの入った黒毛よりも、赤身の短角牛の旨さに目覚めてしまった(Select)」消費者が、楽しくつながろう(Session)よと、SelectとSessionの意味を込めています。年1回東京でのミーティング&BBQパーティー、年1回現地牧場ツアーの2つのビッグイベントの他には、会員が短角牛を食べて「旨いっ!」と友人家族に地道にアピールするという、なんとも、緩やかなファンクラブ。

今回は、そんな私たちに初めて与えられたSupportの機会でした。限られた時間の作業で私たちができたことはほんの少しだし、復旧にはまだまだ時間がかかるけれど、それでも20人が協力して集中して作業することで、少しばかりは片付けが進んだようです。柿木さんや、ご家族、従業員の方が喜んでくださっているのが伝わってきました。(中略)

実は、最初に「CSA」構想を聞いた時、「なんだか上手く行きそうにない仕組みだな」というのが第一印象。米国CSAのように経済的な意味で生産者を支えるわけでもないし、会員である消費者にも経済的なメリットはない。会員管理、会費徴収、プロモーション等を請け負う東北開墾が受け取るコミッションも大した額ではない。関係する誰にも経済的なメリットがなければ継続するハズないじゃん…「胡散臭いからとりあえず会員になってみよう」というかなり不純な動機でメンバーになりました。そして、心のどこかで「どうせそのうち行き詰るだろうな」と意地悪く思っていました。

それでも、BBQパーティーや牧場ツアーのたびに柿木さんと顔を合わせ、国産のエサにこだわって育てていること、牛を放牧している夏の間に柿木さん自ら冬のエサにするためのトウモロコシを栽培していること、黒毛和牛全盛の中でどうやって短角牛の価値を訴求していくのか…柿木さんの思いをお聞きするうちに、当たり前のように食べていた牛肉が消費者に届くまでの苦労や、生産者の葛藤が見えてきました。

そして、短角牛が春から秋まで放牧されている広大な山の牧場は、何度訪ねても涙が出るぐらい感動します。起伏のある斜面を移動しながら草を食べる牛、母仔が寄り添いストレスフリーで成長していく様子に、短角牛の美味しさが凝縮されているのです。最初に短角牛を食べて「美味しい!」と思ったときよりも、柿木さんのお話を聞くたびに、牧場を訪ねるたびに、もっともっと短角牛が好きになり、美味しさを実感するようになる。ストレートな経済的な価値は生んでいないけれど、柿木さんと知り合えたこと、何度も牧場を訪ねる機会を得られたことは、私にとって大きな財産であり、回を重ねるごとにCSAのメンバーであることの価値を実感しています。(中略)

災害に見舞われたことはとても残念なことで、柿木畜産にとっては経済的な被害も大きかったことと思います。でも、今回の猫の手お手伝いツアーを通じて、会員同士の思いや柿木さんとの関係は深まりました。私たちは私たちのやり方で、生産者と消費者が緩やかだけどしっかりつながっているコミュニティを作っていけるように思いました。CSAという仕組みのポテンシャルを信じます。継続は力なり。

■取り戻しつつある日常

<編集部から福田亜由美さんへの聞き取りより>

その後もCSA会員によるサポートは続きました。「まだやり残したことがある!もう一度柿木さんの所に行かなきゃ」と、ツアー後、一旦帰宅したにもかかわらず一週間もたたずに舞い戻ってきたメンバーがいたり、東京でイタリアンレストランを経営している会員は、Facebookで仲間のボランティアの様子を見て「みんなの投稿見ていたら、居ても立ってもいれなくなった!」とお店を休んでまで柿木さんのもとに駆けつけたり、仲間を募って、日帰りでボランティアに臨んだ女性会員もいたそうです。一人一人の力が大きな力となり、柿木畜産は日常を取り戻しつつあります。

 

2016.9.14 <柿木敏由貴さんの投稿>
本日は、台風10号の被害以降、初の出荷!!岩泉や川井村、そして当地域、久慈市も被害の大きかった地域は、短角牛の産地です。私の農場は、被害があったものの、生産は続けられる状況ですし、生産可能な農家は、滞りなく出荷し皆様へお届けする事が、再生へとつながると思います。まだまだ先の見えない状態ではありますが、無事出荷した牛さんは、皆様に「美味しい!!」と言って食べて頂きたいと願っております。これからも短角牛をヨロシクお願い致しますm(__)m

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■継続は力なり

「短角牛大好き倶楽部」の有志のみなさんは、慶應義塾大学で開催されている慶應連合三田会大会に2015年より出店されています。10月16日に開催された今年の大会では、今年も”短角牛のローストビーフ”を販売されました。普段なかなか食べることのできない短角牛の美味しさを求め、お肉の良い香りにつられ、などなど様々なきっかけから多くの方が短角牛を食していたようです。

2016.10.16 <コミュニティマネージャー 福田亜由美さんの投稿>

みなさま、ご来場ありがとうございました。皆さまの笑顔こそが、私たち短角牛大好き倶楽部のシアワセです。今年は久慈市山形村が台風被害に遭ってしまいましたが、このようにたくさんの方々に山形村短角牛をご愛顧頂き、生産者の方々も喜ばれていると思います。ほんの一部の方ですが、売り切れてしまいごめんなさい。短角牛は希少種で、元々の頭数が少ないので、一気にドド〜んと売れないのです。大切に育てているからこそ、大量生産できない。これは宿命なのです。でも懲りずに来年もまた来てね。

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2016.10.18 <「短角牛大好き倶楽部」会員 貝田尚重さんの投稿>

16日・日曜日は連合三田会イベント(慶應大学OB版学園祭的なお祭)に「短角牛大好き倶楽部」の有志で出店。短角牛ローストビーフ売りまくり! 昨年に続いて2度目の出店だったので、覚えていて食べに来て下さった方、「去年食べ損ねたので、今年こそ!」という方もいました。開店準備のためにお肉を焼き始めてから、匂いにつられて集まってくる人の行列途絶えることなくお肉は2時間足らずで完売。「いわて山形村短角牛の価値を正しく評価してね」という思いを込めて、競合となるステーキ販売やローストビーフ丼のお店より高めの価格設定だったけど、それでも選んで食べて下さる人がいることに心を強くしました。素材の良さに、シェフ2人の連携プレーで絶妙なる焼き具合。ちょっと贅沢なWASARAの紙皿に盛り付け、最後にマルドンの岩塩と最高級のエキストラバージンオイルをかけて仕上げ。屋外イベント出店とはいえ、クオリティに妥協なし! 私は裏方でずっとローストの素晴らしい香りに浸っていられたのがシアワセでした。(中略)

今回、収益の一部は、台風10号の被害にあった久慈市に義援金としてお送りすることにしました。短角牛大好き倶楽部は、「いわて山形村短角牛めちゃ旨!」と叫びたい人達のなんの縛りもないゆるやかな集まりですが、楽しくイベントに参加して、多くの人に短角牛の美味しさをお伝えして、そして、ほんの少しだけ、短角牛の故郷にお返しをすることができる。最高の大人の休日を過ごすことができました。カッキーと2人のシェフと、短角牛が縁で出会えた皆さんに感謝!

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■編集部から

私の日常を「食」という切り口で見てみると、生産者とその生産現場に支えられています。普段食べている食材をつくっている生産者の顔を知っていたり、生産現場にいったことがあったりしても彼らの力になる機会はなかなか訪れません。そして、その関係性を築くことも難しい世の中です。

今回取り上げた、「短角牛大好き倶楽部(NPO法人東北開墾柿木さんちのCSA)」の取り組みからは柿木さんと会員のみなさんがこれまで築いてきた「信頼関係」を強く感じました。いただきます。とごちそうさま。を言い合う生産者と消費者の構図にとどまらない、家族のような温かさのある短角牛大好き倶楽部のこれからを応援していきたいと思います。

構成:NIPPON TABERU TIMES 編集部 ミネミキコ


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畜産農家 岩手県久慈市山形町