オーナー募集で100名が即決!熊本県の果樹農家に聞くSNS時代の農マーケティング

in 編集部から/農家漁師にインタビュー
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こんにちは。編集部のミネです。先日、『物欲なき世界』でこんな文章を見つけました。

”「農林水産省がやっている新規就農調査を見てみると、若い人が増えているんです。(中略)」ご存知のように農業は典型的な衰退産業なんです。しかし、その中で新しいタイプの事業をやる人が出てきて、それが魅力的に宣伝されていたり”自分なりの新しいやり方ってあるんじゃないか”と感じられるようになってきたのかと思ってます」”

自分なりの新しいやり方ってなんだ?そんな疑問を浮かべた矢先、メディア出演多数、独自のマーケティングでファンを獲得してきた果樹農家の片山さんとお話することに。初めてお会いしたとき、寡黙で落ち着いている方だなと思ったのが第一印象だけど「ハナウタカジツという物語、ソーシャルネットワーク、コミュニケーション・・・」言葉の端々に興味をそそられる言葉が。片山さんに農家ってなにが楽しいのか、展開する新しい農業のやり方について伺いました。

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ハナウタカジツ代表 片山 和洋(かたやま かずひろ)
熊本県生まれ、熊本育ち。
IT系専門学校卒業後、2年間のフリーター期間を経て就農。
温室栽培と完熟収穫にこだわり多数の果樹をつくっている農家さん。

「農家にだけはなりたくなかった。」

小さい頃に、部活動の送り迎えがあったじゃないですか。その時の送迎が軽トラっていうのは嫌だったんです。親が農家だと、送り迎えが軽トラなのは当たり前。農家にだけはなりたくなかった。だから、高校も普通科に行ってコンピュータの専門学校に進みました。当時は、デザイナーになりたいと思ってましたね。それ以外にも、学校の先生とかケーキ屋さんとか憧れていた。けど現実はそうもいかなくて・・・専門学校を卒業後、「フリーター」になったんです。

フリーター時代は、スーパーでアルバイトをしていました。接客をやりながら、お客様って”伝え方(話し方や言葉の言い回し)次第で変わる”ことを学んだんです。このときは、これが今のスタイルにつながるなんて特に考えてなかったですけど・・・僕は、2年間のフリーター生活を経て父のやっていた農業を継ぐことになりました。

最初は、農業経験もなかったのでお手伝いしかできず、ふと

「これまでいっぱい夢があったけど何一つ叶わなかったな〜」

という敗北感と挫折感でいっぱいでした。

片山流!消費者に響く農マーケティング

農業の成功パターンは無数にあると思います。僕の場合は「温室栽培」「完熟収穫」というところに現れています。いくつもの温室で、それぞれ温度管理のタイミングを変え、収穫・発送時期を長く保つなどの工夫をしています。食べる人に直接届けることができるので、もぎたてのおいしさを味わっていただけます。そもそも、果物を完熟させるのってtoC(消費者)には響くんです。今は、インターネットが普及してどこに住んでいても自分の好きなものを探して選べるようになりました。

僕の場合、就農した時からインターネットが好きだったんで、サイト作りは自分で手がけています。ハナウタカジツという名前をつけたのは5年前くらいです。サイトのためにというより、熊本でのマルシェ出店の際に命名したのがきっかけです。当時は、片山和洋→ハナウタカジツだったんですけど今はハナウタカジツ→片山和洋になってきてますね。

 

ハナウタカジツは農家ではない?

僕はハナウタカジツは”農家”ではないと思っています。届けているのは、果実だけじゃないんです。四季折々の変化を楽しめる日々の発信、イベントや体験を用意し、果樹園や外の世界とつながる「きっかけ」をお客様に提供しています。この「きっかけ」づくりをすることで、「ハナウタカジツ」は農家の枠をこえて、「場」であり、ひとつのブランドになってきているんじゃないかと思います。

では具体的にどのように「いろいろな人とつながる」きっかけをつくっているのか。

僕の場合、その手段は様々なインターネット媒体です。いまやっているメディアでいうと

などがあり、今後も面白い場があればどんどん活用していこうと考えています。

 

メディアづくり=能動的な発信の促進

僕がメディアづくりで意識していることは、能動的に発信してもらうこと最近、若い世代や主婦層が使っているメディアにインスタグラムとクックパッドがあります。これらのメディアで特徴的なのは

情報を受動的に感じるだけの人=見るだけの人

が多いということです。そういう人たちが”能動的に発信する状況”をつくるために、様々な工夫をしています。たとえば、

#(=ハッシュタグ)です。

畑に来てくれた人たちには僕の思いを惜しげなく何度でも話しますし、遠慮せずにどんどん写真を撮って下さいと伝えます。そして、SNSで発信の際はハッシュタグを使って下さいとさりげなく言うこともあります。結果、多くの方が自然な形でハナウタカジツを世の中に発信してくれるようになりました。
#ハナウタカジツで検索するとたくさんの投稿が出てきますよ。

特にインフルエンサー*の人たちの拡散力はすごいです。

 

他のメディアの棲み分けも紹介しますね。あくまで僕の見解ですが・・・

ウェブサイト/Facebook/OWNERS→既存のお客さま
インスタグラム/クックパッド/日本食べるタイムス/OWNERS→見込み客

こんな風に整理をしています。果物農家の生き残る術(すべ)は、見込み客の層です。

こういった方々にはいきなり果実セットを売り込むというよりも、日々の畑の様子に触れてもらうことで、「ハナウタカジツのある生活」の満足感をイメージしてもらいたい。そうした先に、ハナウタカジツを食べるところ(顧客になる)があると思っています。

 

100名枠がすぐに埋まったオーナー制度

リアルな生活を満足したい人向けに行ったのがOWNERS」でのオーナー募集です。

オーナーさんは年間1万円でハナウタカジツの旬を楽しむことができます。オーナーになった暁には、旬の果実を届けるだけではなくスイーツレシピやイベント招待・収穫体験などをとっておきのものを用意しました。

<プラン名:夏も冬も感動の果物体験。フルーツ王国熊本の季節を感じる果実たち>スクリーンショット 2016-07-24 16.51.29
◆提供商品
①桃(はなよめ)12個入
②すもも 500g ×4パック
③キンカン 250g×7パック
④どすこい!横綱みかん7個入
◆オーナー特典
①ハウスにオーナー様のお名前プレートを設置
②果実を使ったプチギフト
③収穫体験
④のし対応可能
⑤追加商品購入は通常価格から2割引

正直、このプランの利益はほとんど0です(笑)

けれど、募集を開始して早2日で50名の満員御礼に達し、急遽二次募集も行いました。現在、ハナウタカジツのオーナーさんは100名を越えています。

収益ほぼ0!それでもオーナー制度をはじめたワケ

収益0、しかしオーナーさんは僕がアプローチしきれていない人たちにも「きっかけ」を与えてくれるんです。これにはとても意味があります。僕は、オーナーさんに前述した”能動的な発信”を呼びかけました。

2016年冬、オーナーさんへ「種ごと丸ごとキンカン」を届けました。オーナーさんには、キンカンが届いたら、メディア(インスタグラムやFacebook)を通して#ハナウタカジツというハッシュタグをつけて投稿してもらったのです。

スライド2これらの発信により、オーナーさんでない人にもハナウタカジツの存在を知ってもらえるのです。オーナーさんの多くは、リアルな生活を満足したい人です。彼ら、彼女らの友人ですから、投稿をみて問い合わせをくれる人も多いです。 他にも、 能動的発信を促進させるためにこんなことをやりました。

#ハッシュタグ をつけたら抽選でハナウタカジツが届くというキャンペーン

ここでは、隠す部分(ハナウタカジツとオーナーさんしか知らないコミュニケーション)と見せる部分(万人が見ることのできる情報)を分けるのです。

隠す部分=抽選でハナウタカジツが届くという秘密
見せる部分=本人がハナウタカジツを購入したという事実

秘密を与えることによって、お客様は「抽選で当たればハナウタカジツが届くかもしれない!投稿してみよう」という気持ちになります。その投稿自体が、ハナウタカジツにとっては新たな見込み客獲得につながるのです。


ブランドづくりのキーワードは「恊働」

先に述べましたが、”いろいろな人とつながる”ことをテーマとしているハナウタカジツの周りにはたくさんの人がいます。パティシエや栄養を学ぶ学生さんやデザイナーの方など、単に生産者と消費者の関係ではなく他業界で活躍する方もいるのです。そしてハナウタカジツのスタンスは

彼ら、彼女達が成功するためなら一役かいますよ!

という感じです。

 

”無料”で果実を提供するスタイル

例えば、パティシエにタダで果物を提供してもいいと思っています。パティシエの方にハナウタカジツの果実を使ってオリジナルのスイーツをつくってもらいます。作り手はプロなので、素人が想像もしないような素材を活かした作品を作ってくれます。ケーキを販売する過程ではこのような「ストーリー」が生まれます。

◆ハナウタカジツの<はなよめ>を使ったスイーツ◆

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果実の違う楽しみ方を紹介できる→スイーツを購入し、食べた人がハナウタカジツを知ってくれる。スイーツは多くの場合一人ではなく複数人で食べることが多いので、ハナウタカジツも自然と伝播していきます。こうして他ジャンルの人たちととつながりながら、ハナウタカジツというストーリーが重ねられていくのです。

※注 誰にでも無料で提供というわけではありません。

 

違うジャンルでも「こんなのありますよ!」と応援するスタイル

先日、バック作家のmikoさんが池袋パルコにて期間限定ショップをオープンしました。果樹農家とバック?と思われた方も多いかも知れませんが、以前ハナウタカジツとのコラボでバックを作っていただきました。

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熊本出身のmikoさんの作品にかける想いと僕の想いが重なったこともありコラボが実現しました。そんな、mikoさんが期間限定ショップをされるということでハナウタカジツのメディアでも取り組みを紹介したんです。

これは単純に、mikoさんへのエールという意味に加えて「ハナウタカジツは果樹農家というジャンルを越えた取り組みをしています。」というメッセージも含まれています。また、ハナウタカジツには関東のお客様も多いので、ふらっと池袋パルコに行ってバックを皮切りにハナウタカジツの話をしてくれないかな〜といった目論みもあります(笑)

 

最後に。

「これまでいっぱい夢があったけど何一つ叶わなかったな〜」という敗北感と挫折感でいっぱいだったという話をしましたが、いまは時にクリエイターやプロデューサー…様々な経験を重ねる事で農業を通して夢を叶える事ができています。ただ一つ言える事は、最初から成功しようなんて思ってはだめです。これは果物の栽培と同じで、花が咲いて実になるまで成長していくための力が必要なんです。

「ハナウタカジツは普通の農家とは違う」

よく言われます。それはハナウタカジツが、”旬”や”人とのつながり”を大切にする、他の農家さんとは違うベクトルを持っているからです。

僕は、オリジナリティを持つことで気持ちに余裕ができてきました。農には様々な成功パターンがあると言いましたが、同じ土俵で戦わなければ他の手法をリスペクトすることだってできます。

ハナウタカジツは、これからも毎日のなかにあるちいさなしあわせを表し、ひとりでも多くの日常に“ハナウタ”な気分を届けたい。そんな想いを胸に、私たちは今日も家族そろって、

ハナウタな果実をつくり続けます。

 


*インフルエンサー 他に影響力のある人やもののこと。特に、インターネットの消費者発信型メディアCGM)において他の消費者に大きな影響を与える人。(大辞泉より)

聞き手:峯 美紀子


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農家 熊本県熊本市